BRTか?鉄道か?被災路線"復旧"の胸算用 大船渡線、気仙沼線のあるべき姿とは

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BRTの陸前高田駅

「列車が走っている姿を見たいと言っているわけではない」(気仙沼市の菅原市長)。単なる郷愁ではなく、鉄道が果たしてきた定時・大量輸送という役割をBRTが果たせるのか、きちんと分析すべきという立場だ。

「2年前の町民アンケートでは、鉄路が望ましいという声が多かった。だが、それに続く質問では、鉄道が復活しても利用しないという声が多かった。多額の投資をして復旧したとしても赤字であれば、民間企業の経営判断としてどうか、という部分はある」(南三陸町の佐藤仁町長)

JR発足直後の1988年度、大船渡線(気仙沼―盛間)の1日当たりの平均通過人員は1349人だったが、震災直前の2010年度には426人まで減少した。気仙沼線(柳津―気仙沼間)も1988年度の1425人から2009年度には898人まで後退した。震災後は沿線人口の減少も重なり、BRTによる仮復旧後の平均通過人員(2014年度上期)は大船渡線265人、気仙沼線290人となっている。

それでも、BRTの運行開始当初と比べると、若干ながらも増えているという。自治体の要望に合わせて駅の数を増やし、運行頻度も高めるなど、利便性を向上させた成果だ。鉄道のときには時間帯によっては3~5時間空くこともあったが、BRTになってから30分、あるいは1時間ごとのパターンダイヤとなった。所要時間はやや伸びたが、5分未満の遅れが運行本数の9割以上で、定時性はおおむね確保されているという。

「JRの役割は"足"だけではない」

自治体側の風向きが変わった背景には、BRTで譲歩する代わりにJR東日本からプラスアルファを引き出したいという思惑があるのかもしれない。菅原市長は「JRの役割は“足”だけではない。地域振興や観光振興といった役割がある」と、同社による沿線支援に期待を寄せる。

JR東日本も「われわれには地域の振興をどのように支援できるかという役割もある。次回の会議でわれわれが提案するという方向に進めば、そのような提案をする準備がある」(深澤副社長)と、まんざらでもない。

同社は東日本の各地で6次産業を支援するほか、北東北では風力発電、太陽光発電など再生可能エネルギー開発事業にも乗り出した。こうした雇用創出が伴う事業を、大船渡線や気仙沼線の沿線でも展開する可能性はある。同社のイメージキャラクターである女優の吉永小百合さんがBRT乗車を楽しむテレビCMが2013年に放映されたが、こうした観光キャンペーンが再び行われる可能性もあるだろう。

仙石線の全線開通で沿線各地が沸いた5月30日の午後、柳津駅から気仙沼駅に向けて出発したBRTは、どの停留所でも乗り降りが多かった。車内には部活帰りの高校生や高齢者、観光客の姿もあった。約20席の座席はつねに乗客で埋まっていた。

バス車両なら十分合格点の乗客数だ。だが、列車が運ぶ人数としてはいささか物足りない。新線まで建設した仙石線とは裏腹に、大船渡・気仙沼の両沿線ではBRTが日常の風景になりつつある。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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