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MMT創始者「国債は発行せず金利もゼロでいい」 ビル・ミッチェル教授インタビュー【前編】

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ビル・ミッチェル(William Mitchell)/1952年生まれ。オーストラリア・ニューカッスル大学教授、完全雇用と公平センター(Centre of Full Employment and Equity:CofFEE)所長。MMT(現代貨幣理論)の創始者の1人(撮影:今井康一)
自国通貨を発行する政府には財政的制約がないため、財政赤字それ自体は問題ではないと主張するModern Monetary Theory(MMT、現代貨幣理論)。低インフレ時代には、政府による積極的な財政政策を後押しする理論として注目を浴びた。
近年は世界的なインフレが起きる中で各国が利上げに転じ、財政政策を重視するMMTへの注目度は低下しつつある。今、どんな経済政策が求められているのか。MMTの創始者の1人であるオーストラリア・ニューカッスル大学のビル・ミッチェル教授に聞いた。(インタビューの後編はこちら

――世界各国でインフレ基調が強まった結果、「MMTの間違いが証明された」「MMTは必要なくなった」とする論調があります。今のインフレをどう分析していますか。

そもそもMMTは「インフレが起きない」とは言っていない。

2020年にコロナに直面した際、オーストラリアでは人々の所得の大部分が政府によって守られたが、ロックダウンによってレストランにも映画館にも行けず、家にとどめられた。結果、人々はオンラインショッピングにかけこんだ。家のリノベーションをするため資材を買い込んだ人もいた。

それによってサービスへの支出は大きく減少した一方、実物の商品に対する需要が増加した。そこで不均衡が生じた。供給側では、商品を供給する工場が操業を停止し、輸送システムが深刻な混乱をきたした。

コロナ禍において、ほとんどの国で総支出はそれほど変化していない。実際に起きたのは総支出の増加ではなく、サービスから商品への支出のシフト(転換)だったのだ。これが商品市場に圧力を生み出した。

今のインフレはMMTとは関係ない

――供給制約によるインフレということですか。

これは著しい供給サイドの収縮だった。

ただ、われわれはコロナの対処法を学び、規制も緩和され、工場も稼働し始めた。人々が仕事に戻り、輸送システムも回復した。世界は少しずつ元の秩序を取り戻し始めていた。

問題をややこしくしたのがロシアのウクライナ侵略だ。ウクライナは小麦などの穀物を大量に供給しており、黒海でのロシアによる輸出妨害がサプライチェーンの破壊につながった。

OPEC(石油輸出国機構)はこの状況を利用して原油の供給を制限し、価格をつり上げた。

これらすべてがつながって、今のインフレを生み出しており、需要抑制型のインフレ対策は適切でない。このインフレは政府の過剰な支出が原因でなければ、中央銀行の量的緩和政策が原因でもない。そしてMMTとも何の関係もない。

今、「MMTの間違いが証明された」などと言っている人は、MMTを理解していないばかりか、インフレの実態すら理解できていない。

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