MMT創始者「国債は発行せず金利もゼロでいい」 ビル・ミッチェル教授インタビュー【前編】
――世界各国でインフレ基調が強まった結果、「MMTの間違いが証明された」「MMTは必要なくなった」とする論調があります。今のインフレをどう分析していますか。
そもそもMMTは「インフレが起きない」とは言っていない。
2020年にコロナに直面した際、オーストラリアでは人々の所得の大部分が政府によって守られたが、ロックダウンによってレストランにも映画館にも行けず、家にとどめられた。結果、人々はオンラインショッピングにかけこんだ。家のリノベーションをするため資材を買い込んだ人もいた。
それによってサービスへの支出は大きく減少した一方、実物の商品に対する需要が増加した。そこで不均衡が生じた。供給側では、商品を供給する工場が操業を停止し、輸送システムが深刻な混乱をきたした。
コロナ禍において、ほとんどの国で総支出はそれほど変化していない。実際に起きたのは総支出の増加ではなく、サービスから商品への支出のシフト(転換)だったのだ。これが商品市場に圧力を生み出した。
今のインフレはMMTとは関係ない
――供給制約によるインフレということですか。
これは著しい供給サイドの収縮だった。
ただ、われわれはコロナの対処法を学び、規制も緩和され、工場も稼働し始めた。人々が仕事に戻り、輸送システムも回復した。世界は少しずつ元の秩序を取り戻し始めていた。
問題をややこしくしたのがロシアのウクライナ侵略だ。ウクライナは小麦などの穀物を大量に供給しており、黒海でのロシアによる輸出妨害がサプライチェーンの破壊につながった。
OPEC(石油輸出国機構)はこの状況を利用して原油の供給を制限し、価格をつり上げた。
これらすべてがつながって、今のインフレを生み出しており、需要抑制型のインフレ対策は適切でない。このインフレは政府の過剰な支出が原因でなければ、中央銀行の量的緩和政策が原因でもない。そしてMMTとも何の関係もない。
今、「MMTの間違いが証明された」などと言っている人は、MMTを理解していないばかりか、インフレの実態すら理解できていない。
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