鈴木寛「日本の教員はミラクル」、その働きに理解とリスペクトをと話す理由 課題山積で苦境の学校現場、解決への道すじ
十分な財源確保が進まないなら、親の代わりなど、現在、授業以外の業務も担ってもらっている教員への過剰な期待を見直すべきでしょう。
──社会の理解はどうしたら進むでしょうか。
地域住民が協力して学校運営に取り組むコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)は1つのヒントです。今も、1000万人の人々が学校ボランティアに従事してくれています。教員の仕事の大変さは、学校ボランティアとして児童生徒の前に立ってみればわかるはずです。学校に関心を持つ人が増え、学校ボランティアの体験が教員に対するリスペクトにつながることを期待します。
──労働環境を改善するための財源確保や、教員へのリスペクトによって、学校現場の人手不足は改善しますか。
教員志望者の都合に合わせて採用の柔軟性を高めることも有効だと思います。民間企業での経験を経て、教員になりたいと考える人が一定数いますが、教員免許がボトルネックになっています。
教員免許のない人でも採用し、採用内定後、都道府県の教育センターが大学と共同で提供する教職課程などで免許を取得してもらってから、教員として働いてもらえる仕組みも検討すべきでしょう。すでに東京都では、教員免許を持っていなくても採用試験を受けられるようにしていますが、これを現役大学生にも適用拡大すればいい。各県も東京都を参考にしてはいかがでしょうか。
また、民間企業の就職活動と重なっている教育実習の時期を見直すことも必要です。教員免許取得プログラムや採用スケジュール見直しなどについては、教育委員会と地元大学の教育学部や教職大学院が連携して進め、現場のボトルネックを一つひとつ解決していくことが大切です。
その点、教育委員会と大学との連携が取れている地域と、そうでない地域があり、もっと文部科学省が間に入って橋渡しをしてもいいのではないでしょうか。
とくに地方では単独で課題解決に取り組むのが難しいため、他県の大学と連携してオンラインを活用したリアルとオンラインを融合させた教育プログラムをつくるなどが考えられます。大学には教育行政を専門とする先生もいますので、地域の課題解決には何が必要なのか、大学にも提案力が求められています。
──これから教育をよりよくするために、日本はどんな方向に進んだらよいでしょうか。
社会からマイナス面ばかり指摘され、教員になろうという若者は顕著に減っています。今はオンラインで日本に居ながら海外企業で働ける時代です。日本社会に根強くある減点主義に見切りをつけた若者は、教員や官僚だけでなく、日本そのものから静かに立ち去ろうとしていることに早く気づくべきです。PISA2022の結果を素直に誇り、教員をたたえることは、少子化の負のスパイラルを好循環へと変えることにつながるのではないでしょうか。
(文:新木洋光、記事内注記のない写真:鈴木氏提供、トップページ写真:ペイレスイメージズ1(モデル) / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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