鈴木寛「日本の教員はミラクル」、その働きに理解とリスペクトをと話す理由 課題山積で苦境の学校現場、解決への道すじ
民間企業では、働き方改革など法制面の整備だけでなく、企業間の人材獲得競争によって労働条件、労働環境の改善が進みました。しかし、教育現場は改善が進まず、民間企業との働く環境の格差は広がる一方です。
──どうしたらよいのでしょう。
この構造的なギャップを埋めるには、教育の総人件費を引き上げることが必要です。とくに、日本は教育に対する公的支出のGDP比はOECDでも最低レベルです。
そんな状況でも高いパフォーマンスを出している教員の努力に、社会が理解を示さなければ、教育現場には「見捨てられた」という諦めが広がり、人材が民間企業に向かうことは避けられません。
職場環境改善には、社会の理解と財政支出が必要
──教員に残業代を支払わずに長時間勤務を強いてきた原因とされる給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与に関する特別措置法)の見直しも検討されていますが、議論はなかなか進みません。

東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授、OECD教育2030プロジェクト理事
1986年東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。資源エネルギー庁、国土庁、産業政策局、生活産業局、シドニー大学、山口県庁、機械情報産業局などで勤務。1999年に慶応義塾大学SFC助教授に転身。2001年参議院議員当選(東京都)、12年間の議員時代に文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ・文化、科学技術イノベーション、IT政策を中心に活動。2014年2月より東大・慶大の2校同時の正教授就任(慶大教授は2023年春まで)。2014年10月より文部科学省参与、2015年2月より2018年10月まで文部科学大臣補佐官を4期務める
財源確保の見通しが立たないことが理由でしょう。背景には少子化とシルバー民主主義の進行による負のスパイラルがあります。
児童のいる世帯の割合は1986年に46%でしたが、2022年には18%まで下がりました(厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」)。約半数の高齢者のいる世帯を含めて残り約8割の世帯に増税や年金予算の削減への理解を得て、少数派の子育て世帯のための教育財源を捻出することは政治的に難しくなっています。
ただ、教職員の方々は給料よりも休みが欲しいというのが本音でしょう。給特法改正も必要ですが、残業を減らすために部活動地域移行のための指導員やサポートスタッフを含めて人を増やすことも大事です。それも総人件費のアップが不可欠という点に帰着します。