探究も地域共生もフォロー可能、有用なのに「家庭科」の存在感が薄い理由 障壁となる「旧世代のジェンダー観」と「受験」

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時間増の悲願を阻む最大の理由は「受験科目でないこと」

「食事ひとつをとっても、絶対にこれでなければいけないという正解はありません。しかしどんな料理の組み合わせでも、理想の栄養バランスというものはある。とくに低年齢の子どもはほかの家庭に触れる機会が乏しいので、自分の家庭が絶対的な当たり前のものだと思って生活しているでしょう。だから授業で具体例を示すことで、ふと何かに気づくきっかけにできればいい。子どもたちが違いを語り合える時間にできればベストだと思うのです」

この「気づくきっかけ」を作ることを、堀内氏は「種をまくこと」と表現する。そしてこの種をまくことにこそ、教員の手腕が関わってくると考えている。

「例えば『ほうれん草のおひたし』という枠の中だけで授業を終えるのか、『葉物を茹でる』という視点に広げられるかによって、その後の子どもの応用力が変わってきます。先生方には、唯一の正解を示すのではなく、選択肢に気づき、自立のきっかけになる種をまいてほしい。それができる教員を育てることは、私たちの責務だとも思っています」

ここまで聞いてきて、こちらも気づくことがある。探究学習やキャリア教育、地域共生やLGBTなどのジェンダー論、「正解のない問い」に気づくこと。近年学校で求められていることの多くが、もともと家庭科の領域に含まれていたといえるのではないだろうか。こう問うと、堀内氏は大きく頷いて笑った。

「それは家庭科業界の人はみんな言っていることです、前からやっているし、家庭科でやれるのにねって(笑)。でもそれだけ、これまでの家庭科は存在感を示すことができていなかったのかもしれません。家庭科教員に女性が多いこともその一因かもしれませんが、最大の理由は、家庭科が受験科目でなく、授業時数がとても少ないことです」

一生分の話題を週1の授業で完璧にフォローすることは到底できないし、授業時間を増やすことは家庭科教員の悲願だと堀内氏は言う。だが現場を理解しているだけに、こうも続ける。

「時間が足りないと思っているのはほかの教科の先生方も同じでしょうし、学校でやることが増えすぎているという意見ももちろんあると思います。だからこそ、家庭科をうまく生かして、学校内のさまざまな学びをリンクさせてほしいのです。探究や地域共生も、家庭科と連携できる部分は大きいはず。入試方式の多様化も著しい今、家庭科で扱うダイバーシティーや男女共同参画が小論文のテーマとして出題された例もあります。受験科目でないから注力しないのではなく、気づきの種をまく教科として、ぜひ生かしてほしいと思います」

堀内氏は、とくに家庭科の指導内容には「国がどんな社会を作ろうとしているのか、その教育政策が顕著に表れている」と語る。確かに過去の教育には、性別役割分業推進の意図があった。そしてさらに、家庭科の置かれた状況から、今の問題をうかがうことができる。拭いきれない個人のジェンダーバイアス、現場の負担と人材不足、受験のための偏差値重視。どれも一足飛びに解決できない課題だからこそ、家庭科を通じて新しい世代の価値観を育てることが重要なのではないだろうか。

(文:鈴木絢子、注記のない写真:YsPhoto / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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