このため、夜間光を用いてGDPを推計する際には、まず両者の間にどのような「安定した関係」があるかを特定し、それを前提として、前者のデータから「よりごまかしのない」GDPの値を求める必要がある。問題は、どのようなデータを用いて両者の「安定した関係」を推計すればよいのか、ということだ。
もし、公式GDPの値が一貫して水増しされているのなら、そもそも両者の間に「安定した関係」が存在しないからだ。
そこで、マルティネス氏は以下のような方法をとっている。まず、各国の夜間光の増減率とGDP成長率との関係を分析し、権威主義国家と民主主義国家を比べると、前者のほうが、夜間光が1%増加したときに実質GDP成長率が何%上昇するかを示す値(弾性値)が大きいことを示した。
この結果を用いて、中国などの権威主義国家が、民主主義国家と同じ状況にあれば、上記の弾性値ももっと低いはずだ、という前提でGDPの推計を行ったのだ。
ただ、これにはいくつかの疑問がある。権威主義国家は民主主義国に比べて統計制度が十分に整備されておらず、GDPのカバレッジも小さい。だから、夜間光との関係も経済成長によって変化する可能性がある。
つまり、マルティネス氏の研究は、前者の公式GDP値が共通のバイアスを持つことは示しているが、その「バイアス」がどのようなものかは必ずしも明らかにしていない。
しかし番組では、中国の地方融資平台の過大な債務問題などの報道に続けて彼の研究を紹介することで、経済不振を隠そうとする中国政府の姿勢がその「バイアス」の正体である、と印象づけようとしているように感じた。
NHKの姿勢は高く評価できる
以上の批判はやや専門的な観点からのものに過ぎると感じられるかもしれない。しかし、エビデンスに基づく報道が日本にも根付くためには、それに対する専門家による検証が不可欠である。
NHKのウェブサイトでは独自取材で得た1次資料のソースや論文へのリンクが公開されている。このようにデータを公開して「再現性」を確保するのはエビデンスに基づく分析の基本であり、だからこそ筆者もこのような批判を行うことができた。
筆者はこのNHKの姿勢を高く評価している。このような試みがほかのメディア各社にも広がっていくことを強く希望したい。
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