世界から30年遅れ、精神科医が警鐘「日本版DBS」で子どもの性被害は防げない 依存性高く累犯つながりやすい性犯罪防ぐには
そして、認知行動療法で改善が見られない場合の補助的な選択肢として薬物療法があります。男性ホルモンを抑制し性的欲求を低下させるホルモン療法が代表的なものです。認知行動療法を受けている本人から、再犯しそうだと申し出があった際に、一時的にホルモン療法を受けるといった場合などに用います。子どもに対する性的嗜好は変化しにくいので、嗜好はあっても行動に移さないことを第一の目標に、治療を進めています」
福井氏が加害者治療に力を注ぐことになったのは、子どもの頃の性的虐待による解離性同一性障害(多重人格)の患者を多く受け持った経験からだという。
性暴力の被害者である子どもにいくら治療を施しても回復は難しかった。性暴力が起きないようにするには、加害者側への働きかけ、それも注意するといったレベルではなく、治療や支援のシステムを包括的に整備することが必要との考えに至ったという。
SOMECのような性障害を対象とした治療・支援の専門機関は国内にはまだ少なく、加害者が子どもに接しない仕事に就こうとしても職業訓練の機会や、仕事のあっせんも受けられないのが現状だ。
ホルモン療法にしても保険適用にはならない。加害者の治療や更生、社会復帰支援の視点のある包括的な加害者対策があってこそ、性犯罪の抑止につながるという考えだ。
「ごく普通の人が加害者になり得る」という認識を
一方、国は子どもや保護者側に対して性被害を減らす対策を強化している。文部科学省が推進する「生命(いのち)の安全教育」は、子どもが性暴力の加害者や被害者、傍観者になるのを防ぐための教育だ。
幼児期、小学校低学年から「水着で隠れるところ(プライベートゾーン)は、自分だけの大切なところであり、見せたり、触らせたりしてはいけないことを意識する」「自分の体を見られたり、触られたりして嫌な気持ちになる場面について考え、対応方法を身に付ける」などが教えられている。中学・高校段階になると、性暴力の例や背景、相談方法も学ぶ。
「今、社会に一番足りないのは、子どもに性暴力を加える者が自分たちの身の回りには思いのほかたくさんいるという認識です。性犯罪をする人は、自分たちとは違う、まるで関係のない変質者のように捉えているかもしれませんが、実際の患者に接しているとわかります。ごくごく普通の人たちです。ただ、性犯罪は依存性が高く累犯につながりやすいため、監視・隔離だけでは抑止できないという認識に立ったうえで、対策や自衛の方法を考えていくことが必要です」
(文・長尾康子、注記のない写真:yamasan / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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