5億円も公費投じる真の狙い、港区「中学で海外修学旅行」から考えるべきこと 公立で本当に必要?批判する人に欠ける視点
このあたりは首長の思い入れなど、自治体の子育て世帯に対するスタンスが反映されやすい部分でもあるが、財政力によっては現実的にできないという自治体も多くあるだろう。
「格差があれば、それをなくす視点が必要ですが、できない自治体には国が支援をして全体としてどう底上げできるかがポイントになります。また、そもそも修学旅行という全員が参加するプログラムに、家庭が高額な費用を負担している現状にも目を向けるべき。就学援助は自治体によって基準が異なりますし、必要な支援が届かずに修学旅行を諦める子も実際います。コロナと物価高騰で食べるのにも困る家庭がある中で、公教育における家庭の負担をあらためて見直していく必要があるのではないでしょうか」
子どもたちの「学びの環境のあり方」の議論に
一方、修学旅行が単なる恒例行事になってしまっている学校も多いのではないか。今は「探究」という言葉を据えて、修学旅行の内容自体を積極的に見直している学校もある。
「だんだんと修学旅行の様子も変わってきています。単なる思い出づくりではなく、今回をきっかけに『子どもたちの学びの環境のあり方』について議論が進んでいくといいと考えています」

聖心女子大学 現代教養学部教育学科 教授
(写真:本人提供)
こう話すのは聖心女子大学・教授の益川弘如氏だ。学習科学・認知科学を専門とする益川氏は、教科学習主体で受験に焦点を当てた学びから脱却し、将来にわたって活躍する土台となり得る場として、海外教育旅行をうまく活用してはどうかと提案する。
「今はインターネットを通じて多くの情報を得られますが、実際に日本とは異なる文化圏に行って得られる体験はやはり貴重です。子どもたち自身が成長するというのはもちろんですが、多様な視点で世の中を俯瞰して見直すきっかけとなり、いろいろな学習にもつなげることができます。そういう機会をできるだけ早い段階に持たせてあげるのは、大人の役割として大事なのではないでしょうか」
それは主体的・対話的で深い学びの実現やGIGAスクール構想など、変わろうとしている日本の教育、だが簡単には変わらない学校教育を変えられる可能性も秘めているという。
「誰かから教わるのではなく、自分で主体的に学んで、いろいろな人と対話しながら課題を解決していくことが学びだという“学び方”を生徒が知ると同時に、こういう動きが増えていくと、先生たちの教育観ひいては社会全体が変わっていくと考えています」
そして有意義な修学旅行とするために、事前の学習活動を充実させるのはもちろんだが、「その後も総合的な学習の時間を活用して、地域の課題解決など何らかのアクションにつなげていけるといい」と益川氏は話す。
公立中で海外修学旅行を実施することについて賛否が出るのは当然だが、学習活動の一環として、まずはその中身について見直してみてはどうだろう。また、こうした探究的な学びは国内修学旅行でも決してできないわけではないが、これからの子どもたちに必要な教育を自治体間で差がなく実施するにはどうすればいいのか、前向きに議論が進むことを願いたい。
(編集部 細川めぐみ、写真:Fast&Slow / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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