激しい荒れと異なる「令和の学級崩壊」の質的変化、予防のためのポイント3つ 特別な支援を必要とする子の増加との関係とは

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ところが、発達障害者支援法が制定された2004年あたりから、「一人ひとりの特性に合った指導をする」ということが、学校に強く求められるようになりました。

授業中に立っている子がいると、教師は、いきなりは注意せず「どうした?」と尋ねたり、「教育的な無視」といって、見て見ぬふりをしたりする場合などが出てきました。「無理に座らせるよりも、ほかの子に迷惑をかけない限り、ある程度自由なやり方で学ばせたほうが、この子にとってはいい」などの判断が、心の内にあるからです。

そして、周囲の子どもたちは、「Aさんが立ってもいいなら、私たちも立ってもいいですよね」と要望してきます。それに対して、教員はあからさまに「きみは、座ったままで学習できるだろう? あの子とは、違うんだから」とは言えません。個人の能力に関することを、ほかの子どもたちの前で言うことは、人権を尊重する観点から大きな問題があるからです。

また、仮にそれとなく、「立ってもいい人」と「立たなくても学習できる人」の規準を、その子に伝えたとしても、ほかの数十人の子どもたちにもそれらを伝え、説明することは現実には無理です。なおかつ、その規準自体が妥当なものかどうかは、本当にはわかりません。

つまり、「一人ひとりの特性に合った指導」が求められ、教員もまたそれを標榜しているのですが、「一人ひとりの特性に合った指導」の妥当性に対する疑義に、教員はいつもさらされているというわけです。この疑義は、とてもシンプルな言葉によって投げかけられます。「あの子に許されているのに、どうして私には許されないのですか」と。この問いに、教員は「いや、ダメというわけじゃないんだけど……」と、口ごもるしかありません。

子どもは「じゃあ、いいんですよね」と言って、授業中に立ち歩くようになります。教室は、無法地帯となり、子どもたちはどんどん「やすきに流れる」ようになります。規範は「軟らかく」、いつでもそれを破ることや、知らないうちにつくり変えられるというようなことが起きるようになります。

5. 両方とも危険度は高い

話を整理しましょう。以前のような「硬い規範」を全員に守らせることだけが強く求められる教室は、学級崩壊の危険度が高い教室といえます。そうした教室では、特別な支援を必要とする子やセンシティブな子どもたちが、不適応を起こしやすいです。息苦しい教室に耐えられなくなってしまうのです。また、教員の指導を強化しようとする「ミニ先生」が、担任の代わりに、適応できない子どもたちを注意する姿も、よく見られます。その先には、いじめの発生も予想されます。

一方で、「軟らかい規範」しかない学級では、子どもたちの生活や学習する意欲はどんどんと下がり続けます。「一人ひとりの特性に合った」指導を標榜しているのですが、その実は、「一人ひとりに好きなようにさせている」指導になってしまうことが多いからです。こうした学級もまた、学級崩壊の危険度が高い教室といえます。

学級崩壊の予防、改善するための3つのポイント

では、学級崩壊を予防、また改善するにはどうすればよいのでしょうか。ここでは3つのポイントを紹介します。

1つ目は、校長のリーダーシップの質を変えることです。学校づくりというと、校長の強力なリーダーシップによって、学校をひとまとまりにするというようなことが想起されます。そうした校長は、どの教員にも同じ手法を求めたがります。そうすることで、どの教室でも、どの教員であっても、同質の教育サービスを子どもたちに提供できると信じているからです。

例えば、「学校スタンダード」と呼ばれる標準的なルールを制定して、それらを子どもたちに厳守させようとするような取り組みは、その例の1つです。しかし、普通に考えれば、こうした取り組みが現実的でないことは、誰にでもわかることです。

例えば、62歳男性の再任用教員、22歳の新卒女性教員が同じ学年を担任しています。前者は国体に出場したことのある元テニスプレーヤー、後者は読書が趣味の文学部出身。この2人の教室が同じように運営できるなんてことは、誰が考えてもありえないことです。

もちろん、双方のよさを生かして、2つのクラスの差を小さくするために、一部教科指導を交替するというようなことは、考えられます。しかし、それでも2つの教室を同じように運営することは、難しいでしょう。

それでもなお校長が、「学校スタンダート」を学級運営の柱とした画一的な指導を、この2人に求めるとしたら、当然困ったことになります。

4月当初、優しくて、よく遊んでくれる新卒女性教員は、子どもたちの信頼を得て、粗削りながらもよいスタートを切ります。しかし、6月の運動会シーズンに入ると、62歳の男性教員から、「先生のクラスは、規律が崩れている。もっと、厳しく指導しなくちゃだめだ。運動会後は荒れるぞ!」と「指導」を受けます。同じ時期に、校長からも「足並みをそろえて、学校スタンダードの徹底を」と言われます。

女性教員は不安になり、指導を「厳しく」します。細かな点を指導するようにしましたし、ときには厳しい口調で子どもを叱るようになりました。子どもたちは、注意されればされるほど、不適切な行動を取るようになります。

こうした校長やベテラン教員からのプレッシャーのかけ方は間違っています。多くの場合、若い教員は潰れてしまいます。こうした若い教員に必要なのは、「どういう教員になりたいのか」「今の学級での担任としての困り感は何なのか」「その解決には、どんなことができそうか」などと質問しながら、その教員の進むべき道をくっきりとさせてあげる対話です。

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