「主体的・対話的で深い学び」と学級経営の相関関係

――「主体的・対話的で深い学び」を実現するために、なぜ学級経営が大切なのでしょうか。

学級においては子どもたち同士の関係性がいちばん大事で、ギスギスした雰囲気だと、どんなにいい授業を行ってもうまく成立しにくいものです。また、何か意見を言ったとき、周りの友達に非難されるばかりの教室では、子ども同士が本音で話すことができず、深い学びにつながりにくいのではないでしょうか。「主体的・対話的で深い学び」の実現に必要なのは「授業の改善」以前に、子どもたちの心理的安全性が保たれた学級づくりであり、子ども同士の関係の質の向上です。温かなまとまりの中で互いの意欲を引き出し合えるような学級経営を行うための手段の1つが「クラス会議」であると捉えています。

――深見さんは、「クラス会議講師」として全国各地で講座やセミナーを開催しています。クラス会議とはどのようなものなのでしょうか。深見さんが、クラス会議を行うようになったきっかけを教えてください。

クラス会議とは、アドラー心理学に基づく学級経営の方法で、「クラスが騒がしい」「係の仕事をやってくれない人がいる」などクラスの問題を子ども全員で話し合い、解決策を考える会議です。小学校のみならず、幼稚園や保育園、部活動のミーティング、企業の会議などでも取り入れられています。

私は大学を卒業して金融系の企業に就職しましたが、以前からの夢だった教員になりたいと思い、玉川大学の通信課程で教員免許を取得しました。愛知県内の公立小学校の教員になり、会社勤めの経験が生かされるだろうと意気揚々と現場に出たものの、「授業がうまくいかない」「子どもたちや保護者の方との距離感がつかめない」「学級経営がスムーズにいかない」などつまずいてばかりでした。

深見太一(ふかみ・たいち)
クラス会議講師、愛知教育大学非常勤講師
1981年生まれ。大学卒業後、銀行系のリース会社で3年間勤務。教員を志し、通信課程で教員免許を取得し愛知県の公立小学校で勤務する中でクラス会議に出合い、8年以上にわたり導入。クラス会議の先駆者として、全国各地で講座を開催。Twitter、Instagram、YouTubeでは、「たいち先生」として実践を発信し、総フォロワーは1万人を超える。ホームページ「0→1」(ぜろいち)内のブログでは、先生が前向きになれる考え方を配信。著書に『対話でみんながまとまる!たいち先生のクラス会議』(学陽書房)、『アンラーンのすすめ』(東洋館出版社)など。3児の父

そんなとき、長年クラス会議の研究・実践を重ね、教員養成に関わりながらクラス会議の普及活動を行う国立大学法人上越教育大学教授の赤坂真二先生が、地元の瀬戸市でクラス会議のセミナーを開催することを知り、参加しました。

「これなら自分にもできるかもしれない」と思い、試行錯誤しながらも実践を重ねるうちに、「担任である自分がすべてを仕切るのではなく、子どもを信じて任せたほうが、学級経営はうまくいく」ということを実感しました。

以来、8年以上にわたって毎年約30回クラス会議を開き、子どもたちの力に驚かされたり、感動したりしながら“一人ひとりの居場所があるクラスづくり”が実現できたと自負しています。公立小学校を退職後、それまでの経験を踏まえクラス会議の意義やノウハウを伝える「クラス会議講師」として活動を始め、全国各地で講座を開催しています。

クラス会議で子どもの悩みが解決することも

――クラス会議は、どのように行うのでしょうか。

一例を挙げると、まずは子どもたちに、クラスで起きた問題を自分たちで解決できるようにするために、クラス会議を導入することを伝えます。司会や書記役は立候補制が望ましいですが、最初は教員がロールモデルとして司会や書記役の見本になります。会議のルールは子どもたちと一緒に決めます。教員が決めたルールよりも自分たちで決めたルールのほうが、子どもたちは真剣に守ろうとします。

次に、議題集めです。「教室の後ろがいつも汚れている」「雨の日に教室で楽しく過ごす方法を知りたい」などクラスの課題、「親がゲームを買ってくれない」「算数が苦手で勉強法を知りたい」など個人の悩み、「運動会の全員リレーの走る順番を決めたい」といった行事やイベントのことなど、誰かを攻撃するような内容でなければどんなものでもOKとします。

そして、クラス会議をスムーズに進めるために、よい聞き方や話し方を練習し、1回目のクラス会議をスタート。クラス会議は机を端に寄せ、いすだけで輪になり座って行います。特別活動の時間を活用して1時間(45分間)で取り組み、週に1回のペースで定期的に行うことで、子どもたちも徐々に慣れていきます。

これはあくまでも一例であり、実践する先生の裁量で自由に組み立て進めることができます。

ステップ1
ハッピーサンキューナイス(15分)
・ 机を端に寄せて、いすだけで輪をつくり座る。
・ うれしかったこと、いいね!と思ったことなどを一人ずつみんなに伝える。

 

ステップ2
振り返り(5分)
・前回のクラス会議の議題が解決できたかみんなで確認する。

 

ステップ3
議題共有(5分)
・ 司会が議題を読み上げ、書記が黒板に議題を書く。
・ 議題提案者が詳しく説明する。
・ 参加者から議題提案者に質問をする。

 

ステップ4
話し合い(15分)
・ ペアやグループで話し合い、解決策を出し合う。
・ 全員の前で解決策を発表し合い、解決策を絞って決める。

 

ステップ5
まとめ(5分)
・ 司会、副司会はみんなのよかったところを伝える。
・ 時間がある場合は、一人ずつ感想を述べる。

出所:『対話でみんながまとまる!たいち先生のクラス会議』(学陽書房)

――クラス会議は、学級会とはどこが異なるのでしょうか。クラス会議を重ねることで、子どもたちにどのような変化が見られますか?

授業の延長のような形やコの字形で全員が同じ方向を向いて話し合う学級会は、ややもすると形式的で、意見を発表する子が学級委員や声の大きい子に偏ってしまいがちです。クラス会議は、みんなで輪になり最初に全員が一言ずつ話す機会があるため、自由でフランクな雰囲気が生まれ、本音で話したり、自分と異なる意見を受け入れたりしながら対話が進んでいきやすいです。

クラス会議を重ねることで、子どもたちは「自分の意見を言うことは気持ちいい」と感じ、「自分たちのクラスをつくっているのは自分である」というオーナーシップが芽生えます。クラス会議講師として半年間関わらせてもらっている沖縄県宮古島の平良第一小学校では、5年間学校を挙げてクラス会議を取り入れているのですが、児童会の役員選挙にたくさんの子どもたちが立候補していました。「自分たちの学校をよくしていきたい」という気持ちの表れですよね。現在若者の投票率が低いことが課題となっていますが、このような経験の積み重ねが、成人してからの主体的な投票行動につながると信じています。

――クラス会議で、子どもの個人的な悩みが解決することもあるのでしょうか。

クラス会議の様子

4年生の担任だったとき、ある女の子(Aさん)が夏休み明けから休みがちになってしまいました。明るく元気で友達関係に問題を抱えている様子も感じられなかったのですが、本人に理由を尋ねると、「給食のときに気持ちが悪くなるので学校に来るのが嫌」とのこと。すると、その子と仲良しの女の子がクラス会議の議題として「どうしたらAさんが給食を嫌がらず学校に来られるようになるのか」を提案しました。その日にみんなで話した議事録をAさんに渡したら、2回目のクラス会議にAさんが参加し、みんなの前で自分の気持ちを話してくれました。

そのときに出た複数の解決策の中から、Aさんは「お弁当を持ってくるのがよいと思いました」と発表してその日は終わったのですが、驚いたことに、Aさんは次の日から毎日登校し、給食もみんなと一緒に食べられるようになったのです。

「給食を食べなきゃいけない」「食べないとみんなから責められる」という思い込みが、みんなの「大丈夫だよ」「私も給食苦手だよ」という声を聞いて気持ちが楽になったのでしょう。その後Aさんはすっかり元気を取り戻し、保護者の方もびっくりしていました。今でも忘れられないエピソードです。

先生という“鎧(よろい)”を脱ぎ、子どもたちを信じて任せる

――クラス会議講師として全国各地で講座を開催されていらっしゃいますが、先生方の反応はいかがですか?

学校に足を運ぶ際は、まずは先生同士でグループに分かれてクラス会議を体験してもらうのですが、先生方は日々忙しく、職場で自分について語り合うような場が非常に少ないんですよね。クラス会議を体験してもらうことが、先生自身の悩みや不安をみんなで共有できる場づくりにつながっていることを実感しています。

先生が、自身の心にちょっと引っかかっていることを抱えながら仕事を続けるのは、しんどいと思うのです。“とげ”が心に刺さったまま忙しさに流されてしだいに増えていき、とげの多さに気づいたときにはもう手遅れで、ある日突然パタッと辞めてしまう。そうならないよう、心のとげをちょっとずつ抜いていくような場は、先生たちにも必要だと痛感しています。そのせいか、講座終了後は、皆さん一様に明るい表情になっている印象です。

先生同士でグループに分かれてクラス会議を体験してもらう講座を全国各地で開催

――忙しい先生がクラス会議を定着させていくために必要なのは、どんなことでしょう。

「クラス会議をする時間がないです」という声をよく聞きますが、「個別に注意したり、叱ったりする時間を転用すればクラス会議の時間に充てることができますよ」と伝えています。

注意や叱責はその場では有効かもしれませんが、子どもの心の奥底には響かず長期的な効果はあまりないと考えています。先生は立場上、子どもたちに「教えなきゃ」「指示しなきゃ」という思考に陥ってしまいがちですが、その“鎧”を脱ぎ、「子どもたちと対等であろうとする」「子どもたちを信じて任せる」といったマインドが、学級経営には非常に大切だと思います。

また、「クラス会議をやる」と決めたら1、2回やってみてうまくいかなくても、そこで諦めず、「みんなで輪になって座れない場合は席が近い4人で輪になる練習をしてみる」「議題が出ない場合は議題を出す練習から始めてみる」など、スモールステップを意識して取り組むとよいと思います。

――深見さんは、クラス会議の実践や先生が前向きになれる考え方などをSNSで積極的に発信していらっしゃいます。SNSでは教員のネガティブな声も目にしますが、どのようにお感じになりますか? 教員養成にも関わるお立場からも、メッセージをお願いします。

子どもの成長に直接関わる教員の仕事は本当に魅力的でやりがいがありますが、その一方で、労働時間や人員不足などさまざまな問題が顕在化してきているのは事実ですし、何としても改善していく必要があると思っています。

私自身も、教員時代は苦しかったこともたくさんありましたし、今このような状況の中で、多くの教員が自身の苦しさや理不尽さをSNS上で発信することに対して否定するつもりはまったくありません。しかし、すべての教員がネガティブな発信を行っているかというと決してそうではなく、ICTの活用法など教員の仕事術、授業のノウハウ、教員としての心の持ち方などをポジティブに発信している教員も多く存在するのも事実です。

私は教員時代からTwitter、YouTubeなど実名で教育への思いや大切にしていることなどを発信し、保護者の方からもチャンネル登録してもらったり、ツイートを見てもらったりしてきました。SNSで実名で発信することで、教員はもちろん保護者の方にも「この先生はこういう考え方をもっている」と知ってもらえるのは、非常にありがたいことだと思います。

教員の“光と影”、どちらの側面をどのように捉えていくのかを判断するのはご自身ですが、これから先の長い人生を少しでも楽しく送るためにも、個人的には、ポジティブメッセージを発信している教員とつながって、一緒に学んでいければと思います。その姿がゆくゆくは、目の前の子どもたちに反映されるのですから。

(企画・文:長島ともこ、写真:深見氏提供)