今、子どもたちは失敗を許されない、窮屈な環境の中で苦しい思いをしているけれど、落語には、人の弱さや欠点を否定せず、笑いに変えて受け入れる文化がある、だから、落語の笑いの世界に触れながら、正しい笑いの使い方を子どもたちに伝えているのです。そんな話を聞いた後に、「正しい笑いとは何か」をテーマに対話しました。私が加わった対話では、「子どもだけでなく大人もそんな苦しみの中にあるのではないか」という声が上がりました。
続いて、山形市で田んぼに浮かぶホテル「スイデンテラス」や有機農法のお米の販売など、いくつも事業を成功させている山中大介さん。最初はたった一人、資金もない中、縁もゆかりもない土地で周りを巻き込み、事業として成り立たせていったストーリーを聞き、対話を始めました。
個人的には「地域都市のあらゆる課題は未来の希望に変えられる!」という言葉に感動したのですが、その後一緒に話をしたお一人が、会社員から有機農法の農家に転職された方で、日本の食料生産の危機的な現状を伺いショックを受けると同時に、教科書には決して載らないこんな現場の話こそ、子どもたちに伝えなければいけないことだと感じました。
次に、広島市出身の被爆3世の住岡健太さんからは、被爆体験を語り継いでいくための活動について話を聞きました。幼少期から祖母の被爆体験を聞き「どうすれば世界が平和になるのか?」が大きな問いとなったという住岡さんは、世界を周った後に「平和をつくる仕事をつくる」をコンセプトに事業化。ボランティアという意識が強い平和ガイドの有償化やテクノロジーを活用した平和活動などに取り組まれている話を聞きました。
核の脅威が身近になっている昨今、平和をつくるってほんと簡単じゃないけれど、語り継がれたからこそ、こうして次の世代が動けるという事実と若い人の行動に感動するとともに、私は何ができるだろうと問いが立ちました。
最後に登壇した鈴木寛さんからは、「卒近代」というテーマで、日本の現状とこれからについて話がありました。「富国強兵の教育は成功し社会は豊かになったけれど、もうそこから卒業する時期だ。今、時代が変わり、人類にさまざまな課題が突きつけられている。日本は次のステージに行く時であり、そこでのテーマはウェルビーイングだ。これまで『ちゃんとしなくては』という“ちゃんと教”にとらわれてきたが、これからの世の中を救うのは一人ひとりの心から湧き上がる思いだ」というお話に、これからの学校教育が目指すべき道が示されていると感じました。一緒に話した方からは、「もう限界に達しているのだとしたら、ここから始めていけばいいんだと逆に勇気をもらった」という前向きな言葉がありました。
こうして、多様な登壇者の話を聞いて対話をする中で、参加者一人ひとりの心の中に、何かしらの思いが湧き起こっていったに違いありません。
巻き込み・巻き込まれ・巻き起こす
実際、「自分たちも何か始めようと相談し始めた」とか、「校内で管理職をしているが、校内研修で対話の場をつくりたい」というような声がすでに上がっているようです。この場をつくった松本さん自身も、「こういう場を、例えば勤務校の職員室や地元の教育研究会、何よりクラスの子どもたちと開いていきたいと思った」と言います。

「みんなの社会共創対話」は、研修の場ではなく、参加した人が自分らしくあっていいんだと実感すること、その人たちがつながること、さらに次は隣の人を連れてきたいと思う、そんな場所になってほしいと思って開いたという主催者の思いは、確実に参加者の人に伝わっていたようです。