児童精神科医に聞く「発達障害とネット依存の関係」、周囲の大人に必要な視点 ICTはプラスの影響もマイナスの影響も大きい
取り上げ厳禁!理想は「活動レパートリー」を増やすこと
もう1つ、大人が考えておくべきことがあると吉川氏。それは、「ほかの活動のレパートリー」だという。
「ただし、インターネットやゲームの時間を減らし、浮いた時間で何かをさせようという発想はうまくいきません。最も失敗するのは、浮いた時間を勉強で埋めさせようとすること。理想は『お父さんと釣りに行くことが増えてゲームの時間が減った』など、ほかに興味があることができてゲームの時間が減ることです。外遊びに限らず、ゲームやネット以外の活動レパートリーが増えれば、健康的な暮らしにつながりやすくなります」
そして、大人が絶対にやってはいけないことがあるという。それは、インターネットやゲームを子どもから取り上げることだ。
「興味・関心が偏りやすいASDや過集中になりやすいADHDのお子さんは、多数派のお子さんと比べ、より大きな楽しみをゲームから受け取っている可能性があります。お子さんが『ゲームやネットだけが頼り』という状態ならば、頼れる先をなくすのは得策ではありません。また、ASDのお子さんは会話が苦手な子も多いのですが、ゲームが同世代のお子さんとの共通の話題になり、『ゲームの話をするために学校に行きたい』といった動機づけにもなります」
親の目には「ネットやゲームを長時間しすぎることが問題」と映っていても、その奥には子どもが別の問題を抱えている場合もあるという。
「発達障害のあるお子さんは、例えば歯磨きやお風呂、学校や勉強など、人生に必要なものに抵抗があると、インターネットやゲームの使用時間が長くなる傾向があります。多数派の子よりも、日常のルーチンや勉強を嫌いにならないための工夫や大人の手伝いを必要とするので、インターネットやゲームへの使用時間が長すぎると感じたときは、お子さんが何を苦痛に思っているのかを考えていくと解決の糸口が見えやすくなります」
「学校や教員の役割」は、学校や勉強を好きにさせること
保護者から子どものインターネットやゲームの利用について相談される教員も多いようだが、学校や教員はどんな対応をするのがよいのだろうか。
「学校の先生に期待したい役割は、学校や勉強を好きにさせること。例えば『学校が楽しい』『勉強が自分の将来につながる』と子どもが実感できるようにすることではないでしょうか」と、吉川氏は考える。
そのため、保護者から相談を受けた際にまず考えるべきは、「その子が学校や勉強を好きかどうか、将来への期待を持っているかどうか」だという。
「学校や勉強が嫌いとか先生や友達ともめているなら、そこは学校が解決する必要があります。一方、学校も好きで勉強への意欲もあるけれど、ゲーム課金の問題を抱えているなどの場合は家庭内で話し合うか、しかるべき窓口に相談してもらうほうがよいでしょう。また、親子の対立をあおらないよう気をつけてください。守れる見込みのないルールを示して『必ず守らせてくださいね』などと助言すると問題は悪化しますので、注意が必要です」
大人でもついやってしまうインターネットやゲームの長時間利用。特性を踏まえた道具の使い方がより必要な発達障害の子どもがICT機器のメリットを最大限に生かし、デメリットを最小限に減らすためにも、大人と子どもが一緒に考えていく必要がありそうだ。
(文:吉田渓、注記のない写真:Tatsuya Osawa/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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