児童精神科医に聞く「発達障害とネット依存の関係」、周囲の大人に必要な視点 ICTはプラスの影響もマイナスの影響も大きい

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「実際にゲーム行動症の診断がつくケースもありますが、WHOの基準ではゲーム行動症になる前に『危険なゲーム行動』という概念がありますし、病気とは言えない状態もたくさんあります。また、インターネットやゲームの嗜癖にはかなり流動性があります。ほかに興味があるものができてインターネットやゲームの時間が減ることもありますし、以前はそれほど長い時間利用していなかった子がやりすぎてしまうこともあります」

道具の使用は「プラス効果とマイナス効果」が両方大きくなる

コロナ禍ではGIGAスクール構想の1人1台端末が配布され、子どもたちにとってICTがより身近なものになった。その影響について、吉川氏はこう見ている。

「デジタルデバイドの縮小に役立つという意味ではよいことだと思っています。一方、発達障害のあるお子さんの場合、『こういう環境や条件だとうまくいく』というストライクゾーンが非常に狭い。そのため、鉛筆でも包丁でもエアコンでも、あらゆる道具の使用に関して、プラス効果とマイナス効果が両方大きくなります。それはICT機器でも同じです」

(写真:ノンタン/PIXTA)

プラスの影響が大きいところでは、例えば読むことや書くことなどが苦手な限局性学習障害(LD)の子どもの場合、スマホやパソコンの読み上げ機能や音声入力、キーボード入力を使うことで、苦手な部分をカバーしやすくなる。

自閉症スペクトラム(ASD)の子どもは、言語コミュニケーションが主流のネット上では、非言語コミュニケーションが苦手だというハンディを埋めやすいといわれている。その一方で、興味があることに夢中になりやすい特性から、インターネットやゲームを「今日はここでおしまい」とすることが苦手だ。

ADHDの子どもは、スマホのTo Doリストなどの活用で忘れ物を防ぐといった使い方もできるという。しかし、過集中の特性から、ゲーム中に声をかけられても気づかない、何時間もやり続けてしまうということがある。

「このようにプラスの影響もマイナスの影響も大きいため、発達障害のあるお子さんにとってはICT機器を上手に使いこなせるよう練習することの意味が、多数派のお子さんに比べて大きいのです」

ルールは一緒に考え、「特性を踏まえた動機づけ」を

こうしたことを踏まえ、発達障害のある子どもが上手にICT機器と付き合えるようになるには、周囲の大人はどう関わっていけばよいのだろうか。

「親御さんや先生など、周囲の大人がどのくらいの時間・気力・体力を使えるのか、それによって使い方のルールを考え、支援していくのがよいでしょう。大人に余力があればその分うまくいく可能性は高くなりますが、大人の生活をねじ曲げてまで対応に割く時間や労力を増やそうとするとうまくいかなくなります」

そのうえで、ルール作りは、大人が作ったルールを守らせるのではなく、なぜルールが必要なのか、どんなルールがいいか、子どもと一緒に考えることがポイントだという。

「お互いが冷静な状態の時に話し合い、お子さん自身の考えが反映されたルールを作るようにしましょう。親子げんかをしながら決めたルールや押し付けられたルールは、子どもは『守るものか』という気持ちになりますから。なお、本来ならルール作りはICT機器を使い始めるタイミングで始めるのがベスト。また、ICT機器の所有権が親にあると、子どもは貸してもらっていることになるので、ルールを守ることに納得しやすくなります」

こうしたルール作りのポイントは多数派の子どもと同じだが、発達障害のある子どもの場合、その特性を踏まえてルールを作りたくなるような動機づけや守りたくなるような演出が重要だという。

「もちろん個人差はありますが、ASDのお子さんの場合、人付き合いが行動の動機となりにくい傾向があるため、『ゲームの時間の後をおやつの時間にする』『決められた時間どおりに終えられたら、翌日のゲームの時間が増える』など、人付き合い以外のものを動機づけとして使うとうまくいきやすいでしょう。ADHDのお子さんは、遠い将来のことを行動のアクセルやブレーキに使うのは難しいため、直近のことを目標にするといいと思います」

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