教員採用試験の倍率低下で臨時教員の登録者も減少
どのくらい余裕がなくなるのか、相川さんの一日を追ってみた。欠員が発生し、学級担任を兼務した時期のものだ。

「担当した学級が低学年だったこともあり、基本的にはずっと教室にいました。授業の合間に10分間の休みはありますが、教室にいるのでまったく休めません。あっという間に昼になり、息をつく間もなく給食や掃除をこなしていきます。子どもたちが帰宅した後、翌日の授業準備をして、ようやく主幹教諭としての仕事ができます。しかし、報告書や会議の資料をまとめていると、合間に保護者からの電話が入るわけです。5分10分では終わらず、30分から1時間かかることも珍しくありません」
まさに一日中仕事に追われている状態だが、相川さんは「欠員が出なければさほどつらさもなく、定時(17時)に帰宅することも十分に可能」と言い切る。
「長時間勤務が問題になっていますが、17時に帰宅する教員はたくさんいます。私も、学級担任を兼務していないときは、定時は難しくても19時ごろには帰っていました」
もともと相川さんは、プライベートを大切にしてきた。大学卒業後に就職した超優良企業を退職したのは、朝早くから夜遅くまで働く毎日に「自分の時間がない」と感じたからだ。学生時代にテニススクールのコーチをしていた経験から、教えることにやりがいを見いだし通信課程で教員免許を取得。教員になってからは「どんなに忙しくても勤務時間は12時間以内(つまり19時半には帰宅)」「土日は出勤しない」を守ってきた。しかし、欠員を埋める臨時教員もいない状況となった今は、そのポリシーも曲げざるをえない状況だ。
「教員になって約20年ですが、昔は欠員が埋まらないなんて考えられませんでした。この数年で一気に状況が変わってきたんです」
なぜ急激に教員不足が進んだのか。相川さんは「教員のなり手が減っているのが最大の要因だと思う」と話す。実際、教員採用試験の倍率は低下し続けている。文部科学省が公表した2022年度の公立学校教員採用選考試験の実施状況結果によれば、小学校教員の採用倍率は2.5倍と過去最低を更新した。00年の採用倍率が12.5倍だったのと比べれば、かなり「広き門」となっていることは間違いない。採用倍率が低くなっているため、必然的に臨時教員の登録者数も減り、欠員が埋まらなくなるというわけだ。

「採用試験の受験者数も減っているとよくいわれますが、教員を目指す学生は学校現場がブラックな職場であることを知っています。その意味では、昔以上に本気で教員になりたい人が採用試験を受けるようになったといえます。他方で、倍率が著しく下がったことによって、昔なら落ちただろうなと思われる人が採用されるようになったとも感じます」
能力不足・不安要素多めの臨時教員が陥る「負のループ」
「昔なら合格は厳しかっただろう」と相川さんが感じる要素は、コミュニケーション能力不足だ。