若手育てる余裕ない「ゆっくり成長」も許されない、学校の人材育成進めるコツ ミドルリーダー生かした段階指導でOJTを充実

初任者が「先生としてゆっくり成長する」のが難しくなっている
これまで行われてきた「経験豊富な教員から若手教員に知識、技術を伝承する」というごく当たり前の人材育成が難しくなるなど、学校を取り巻く環境は大きく変化している。教員のなり手不足に加えて、臨時的任用教員が確保できずに欠員が生じる教員不足も深刻で、ただでさえ忙しいのに世代交代による大量退職で若手教員が増えるなど年齢構成や経験年数に不均衡が生じている学校もある。
若手を育成する十分な余裕がない中で、初任者が1年目から担任を持つということが珍しくないのが学校だ。うまく知識や技術が吸収できないと離職につながることもあり、組織全体として人材育成に向き合っていきたいところだが、基本方針こそ示されていても具体的な育成プログラムを持っているという学校は少ないのではないだろうか。
そのため指導教員は、自身の経験と照らし合わせながら手探りで若手の指導に当たっている。こうした学校における人材育成の現状について、元全国公立学校教頭会顧問で元横浜市立小学校長の野口みか子氏はこう説明する。
「『教員は個人商店、学校はアーケード』と例えられるように、教員は新任でも学級や教科指導を任され、まずはやってみるというのが一般的です。以前より人材育成の重要性は叫ばれていたものの、組織的取り組みの改善を喫緊の課題として取り上げることなく、『校長のリーダーシップの下で育成に取り組む』と校長に裁量権が与えられてきました。具体的な人材プログラムが作られてこなかったのには、こうした背景もあるのではないでしょうか」

元全国公立学校教頭会顧問 元横浜市立小学校長
横浜市立小学校教諭、副校長を経て校長を経験。全国公立学校教頭会副会長、顧問を歴任。退職後の現在、新任教員の指導員や特別支援学級を担当。副校長時代にはミドルリーダーを活かした人材育成の体制を構築。それらの経験を基にした著書『教職員が育つ 学校づくりは人づくり 教頭・副校長が必ず押さえておきたいポイント』(教育開発研究所)がある
(撮影:梅谷秀司)
しかし今、学校が組織として人材育成に取り組む必要性が高まっているという。
「近年、求められているのが、教員の指導力の均一性です。寛容に受け止めてもらえる地域もありますが、初任者が『先生としてゆっくり成長していく』ことが難しくなっています。3世代同居が当たり前だった時代には、子どもの育ちに関する悩みを身近な年長者に相談できましたし、子どもの様子をご近所さんが見守ってくれることも珍しくありませんでした。でも今は、保護者がお子さんの育ちに不安を感じたとき『学校の先生が頼り』になっていますから、経験の浅い若手教員にも力が求められ、早期育成が必要になっているのです」