若手育てる余裕ない「ゆっくり成長」も許されない、学校の人材育成進めるコツ ミドルリーダー生かした段階指導でOJTを充実
「ベテランの教員は、それぞれ経験や知識があるもの。そこで、『相談に乗ってほしい』『どうしたらいいと思いますか?』と問いかけ、意見に耳を傾けます。そうすると『自分の思いや願いが聞き入れられて実現した』と実感してもらいやすくなります。また、『この前、こういうことをやってくださっていましたね』とほかの人が気づいていない、ちょっとしたことを褒めることも大切です。褒めたうえで『引き続きお願いしますね』と伝え、役割を与えるのがいいでしょう。役割を与えるのは年度初めでなくても構いません。例えば、夏休み明けは管理職の考え方が教職員に伝わっている頃なので、スムーズにお願いしやすい時期かもしれません」
実は教員が人材育成に向いている訳
人材育成というと、一般の企業では専門の部署もあることなどから、何か特別なもののようでハードルの高さを感じてしまう人もいるかもしれない。だが、教員の仕事はそもそも人材育成の要素を含んでいるという。
「人材育成で重要なのは、相手を多面的に知るということ。教員の仕事は一人ひとりの児童生徒を多面的に理解し、その子のよさと課題を把握し、力がついてきたタイミングで自己課題を確認させることですよね。人材育成も、対象が子どもから同僚になっただけで、やっていることは同じです。子どもに優れた指導をしている人は、優れた人材育成ができるもの。子どもも大人も、人間は主体的に生き抜く力を持っており、人と関わることでその力は促進されます。それを疑わずに信じて育てることが大切なのです」
小まめにコミュニケーションを取ることも欠かせない。だが、急に距離を縮めてしまっては逆に警戒されてしまう可能性もある。まずは学級の掲示物やげた箱の様子など周辺から相手の状況を知って声をかけることが大事だという。相手を理解するということは、どれだけ多面的に理解しているかということ。日々の見取りは、その基本ということだろう。こうした相手を多面的に見ることは、保護者対応にも生かすことができる。
「保護者対応でも、相手がどんな状況か、どんなふうに感じているのか、多面的に理解することが大切です。また、学校からの連絡は悪い知らせというイメージを持っている親御さんは多いもの。電話でも連絡帳でもいいので、1学期のうちに児童生徒のポジティブなエピソードを保護者に伝えてみましょう。ちょっとしたことで構いません。親御さんに『先生はうちの子を前向きに見ている』と感じてもらえると、保護者対応の壁が低くなります。電話する際は、何をどう話すか事前にメモしておくとスムーズに話せます」
読者の中には今年度から管理職や主幹教諭に昇任した、新たな仕事を任された、という教員もいるだろう。責任ある立場や仕事を任されて、人材育成まで手が回らないという人もいるかもしれない。だが、野口氏はこう提案する。
「管理職になりたての頃は遠慮してしまい、『言いにくいから自分でやってしまおう』『言いやすい人にお願いしよう』となりやすいものですが、まずは人材育成を始めてみることが大切です。学級担任として集団と個の成長を図る学級経営をしてきた経験を生かし、ほかの教職員の力も借りれば学校経営ができます。臆せず取り組んでみてください」
児童生徒の成長を促す教員という仕事。そこで培われた力と経験は、一人ひとりの教員をどう伸ばすかという学校組織の人材育成においても必ずや発揮されていくはずだ。
(文:吉田渓、注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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