若手育てる余裕ない「ゆっくり成長」も許されない、学校の人材育成進めるコツ ミドルリーダー生かした段階指導でOJTを充実

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主幹教諭中心のミドルリーダーを活かした段階指導のメリット

では実際、どのように人材育成を進めていけばいいのだろうか。

横浜市立小学校で副校長や校長を務め、退職後は再任用で初任者指導も担当した野口氏は、校長が方針を明確にして組織体制をつくり、教頭・副校長がミドルリーダーと協力して人材育成を進めていくべきだと話す。

「私が副校長の時は、主幹教諭4人をミドルリーダーとしました。ミドルリーダーが受け持つ集団の中にはさらに小グループがあり、そのリーダーもいます。小グループのリーダー、集団のミドルリーダーが、それぞれ相談に乗るという段階指導を行うのです。段階指導は、人と人とのつながりを基盤としたOJT(職場内訓練)が可能になります」

こうすれば、若手が困ったときに誰に相談すればよいのか、統括者は誰なのかが明確でOJTが充実する。さらには知見や経験の浅い小さなグループのリーダーも、若手の支援を通じて成長できるというわけだ。そのほかにも小グループのリーダー→ミドルリーダー→まとめ役→副校長という段階指導にはいくつものメリットがあるという。

「4人のミドルリーダーの1人がまとめ役となり、副校長に報告を行うという体制を取りました。副校長にはまとめ役から報告がありますし、副校長とまとめ役の意見が折り合わない場合は校長と3人で話し合うことになりますから、校長と副校長が孤立しないというメリットがあります。またそれぞれが小さな商店の店主のイメージで、リーダーが目指すところに到達するためのステップを示すことができるのも、この段階指導のよい点といえます」

教員一人ひとりの力を引き出しながら個人の思いや願いを実現

こうした体制を整えるうえで、ミドルリーダーと人材育成に対する意識の共有を図るのはもちろん、教員一人ひとりをどう巻き込んでいくのかが大きなカギとなる。

「重要となるのが、教員の主体性を引き出すこと。『これをやってください』と一方的に仕事を渡すのではなく、プロジェクトの立ち上げからリーダーとして加わってもらうのです。『この問題を解決するプロジェクトを始めたいのだけれど、どうすればいいと思う?』と相談し、話し合っていくのです」

まずは当事者意識を持たせ、とくにリーダーには責任を意識させるということだろう。さらに、実効性のある人材育成を進めるうえでも押さえておくべきポイントがあるという。

「段階指導による人材育成では、1. その人の経験を生かす視点、2. 未経験の部分を開発する、3. 本人が目指す将来像と合致するか、という3点をとくに重視します。さらに、組織として個人の思いや願いを日々の教育活動の中でいかに実現できるかという視点も必要です。指導する側は『こんなやり方もある』『これはあの人に聞くといい』『私はこんなことを助けられるよ』といったことを伝えながら支援を行うこと。相手の創造性やアイデアを引き出すようにすると、リーダー役の教員は充足感を感じられますし、プロジェクトに多様性が出ます」

それは教員一人ひとりの力を引き出しながら、コラボレーションさせるイメージだという。そうやってそれぞれの「これがしたい」「あれがしたい」を実現させながら学校をつくっていく。野口氏が副校長時代に一緒に仕事をした4人のミドルリーダーの中には、今でも「あんなに学校経営が楽しいと思ったことはなかった」と話す人もいたという。

人材育成で絶対にやってはいけないこと

一方で、絶対にやってはいけないこともある。

「リーダーが『いいとこ取りはしない』ということ。例えば、Aという主幹教諭がB という若手教員に仕事を任せた後、フォローに入ったとします。その際、『A先生がいてくれてよかった』と言われるようではいけません。周りに『B先生がいてくれてよかった』と言われるようにフォローすべきなのです」

仕事を振ったら成功体験が積めるようフォローする。それこそが人を活かし、育てるということなのだろう。難しいのが、管理職やミドルリーダーになると、自分よりキャリアや年齢が上の教員に指示したり、任せる場面も出てくることだ。そのときは相手を思いやる声がけが必要だという。

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