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「傍流の組織」にも接触して人脈を築いておく 佐藤優の情報術、91年ソ連クーデター事件簿⑧

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ソ連共産党中央委員会書記兼社会政治団体部長だったクプツォフ氏がロシア共産党第1書記に選出された翌日の1991年8月7日に、イリイン第2書記は筆者のために時間をつくってくれた。大使館のロシア人秘書は「イリインのような共産党の大幹部が、面会を申し込んだ翌日に会ってくれるのは、私が知る限り今回が初めてです。驚きました」と言った。この反応を聞いて、イリイン氏は話し相手を求めているのだと思った。

「イリインさん。何と言ったらいいのか、私はとても残念に思います。誰もがイリイン先生が第1書記になると思っていました」「佐藤さん。今、私が第1書記になってはいけない。それは敵の思惑どおりになるからだ」「どういうことですか」「7月20日にエリツィンが署名したロシア大統領令を読んだか」「読みました」

この大統領令は、ロシア共和国の領域内ではいかなる国家機関においても政党の活動を禁止するものだった。国家機関の政治的中立性を担保するためというのが口実だった。しかしソ連時代、共産党と政府は一体だったので、どの政府機関にも共産党の支部が置かれていた。大統領令の目的は、ロシア共産党の活動を封じ込めることだった。

ロシア共産党と太いパイプを構築

ロシア共産党も対抗措置を採ろうとした。ポロスコフ第1書記は、ロシア大統領令を無効にするためにソ連全土に非常事態令を導入すべきだと主張した。これはイリイン氏が組み立てた戦略に違いないと筆者は考えた。しかし、ゴルバチョフ氏はロシア共産党の提案を採用しなかった。

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