資本家ではない人々が資本主義を内面化するとはどういうことなのだろうか。この点についても斎藤幸平氏(東京大学准教授)は、具体例に即してわかりやすく説明する。
実際、つみたてNISAをきっかけにして追加の小口取引を始めれば、あなたも立派な「投資家」の仲間入りです。私たちはこうして、毎日株価を気にするようになり、ずっと株高が続いて欲しいと願うようになります。自分が保有する銘柄の株価を毎日何度もチェックしたり、マーケットの動向を勉強するようになるでしょう。
こうやって、私たちは保守的になって、自分の老後がかかっている株価が暴落しないよう願い、資本主義の繁栄がいつまでも続いて欲しいと願うようになるのです。それゆえ、大胆な再分配政策をするために、金融所得税を引き上げたり、自社株保有を制限したりするような政策は、不人気になっていきます。むしろ株高になるような政策、例えば、法人税の減税や金融市場の制限緩和を積極的に支援するようになる。
けれども、そのような政策を選択したところで、大きく得をするのは大株主や大企業ばかりで、小口投資家ではありません。私たちが数十万円ほどの控除で喜んでいる間に、何千万円、何億円も得している人々がいるのですから。
それでも、投資活動を通じて、自らも資本家としての考えを内面化し、振る舞うようになるのです──現実には、自分はただの労働者である、ということを忘れて。(斎藤幸平『ゼロからの「資本論」』NHK出版新書、2023年、155ページ)
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