資本主義が発展していけば労働時間が短くなるというケインズの予言が成就しなかったのは、資本主義システムにおいては資本の目的が自己増殖にあるからだ。社会党左派(社会主義協会)の影響力が強かった1960~70年代に総評(日本労働組合総評議会)が展開した労働運動では、賃上げと並んで反合理化と労働時間短縮が主要な闘争課題だった。しかし、現在ではほとんどの労働組合が合理化(効率化)を当然のこととして受け入れている。
労働への不安と疎外
21世紀になりAI(人工知能)が急速に発展しているが、この動きも労働時間の短縮につながりそうにはない。この点について斎藤幸平氏は、働く人々が現実に抱えている不安を正面から見据えた議論を展開している。
なかでも、人々の不安をかき立てたのが、2013年秋にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーンが発表した論文「雇用の未来」です。700種余りの職業を仔細に分析したオズボーンは、技術革新によってアメリカの労働者の実に半数近くが、10年から20年後には──つまり、早ければ2023年頃から職を失う、と予言したのです。しかも、工場労働者だけでなく、会計士や銀行員のような高給取りもそのリストに記されていたため、衝撃が走りました。
人間の労働が減る、という意味ではケインズの予言とも符合します。しかしオズボーンが予見したのは、人間が「働かなくてもいい」お気楽なユートピアではなく、失業して「働けなくなる」、「生活できない」というディストピアの未来でした。生産力が上がりすぎて人間はもはや要らなくなるのではないかという恐怖心から、私たちは、かつてないほど労働へと駆り立てられているのです。(斎藤幸平『ゼロからの『資本論』』NHK出版新書、23年、91~92ページ)
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