部活動では常態化?「教員の自腹問題」、驚きの実態と解決に必要なこと 保護者の私費負担を考えるうえでも重要な問題
「多忙さゆえに『時間をお金で買っている』という感覚もあるでしょう。また、授業改善や教育活動の充実、子どもとの関係性、ほかの教職員の同調圧力の中で、献身的な教員像を内面化していることもあるのではないでしょうか」
こうした教員文化のほか、福嶋氏は、さらに3つ目の理由として仕組みの不備も指摘する。
「最近は全国の半数の公立学校で給食費の支払いは公会計になってきていますが、校長の口座に振り込む形の私会計の学校では、給食費の未払い分を校長が肩代わりし、その総額が何百万円にも上るという話も。このように仕組みのせいで生じる自己負担もあります」

千葉工業大学工学部教育センター 准教授
専門は教育行政学、教育法学。公立学校運営に関わるお金の問題について研究。共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年)、『#教師のバトン とはなんだったのか』(岩波書店、2021年)。学校事務職員の柳澤靖明氏と共にウェブサイト「『隠れ教育費』研究室」を運営
(写真:本人提供)
福嶋氏は、負担していることに気づきにくい教育費を「隠れ教育費」と呼ぶ。子どもが学校に通うために必要な教育費について、保護者も学校関係者も意外とわかっていない。たとえ認識していても「仕方ない」と思ってしまう。
このように見えなくなっている「隠れ教育費」の保護者負担について、福嶋氏は著書などを通じて問題提起をしてきたが、教員の自己負担についても議論していくべきだと考えている。
「学校運営は、ある研究では小学校で公費1に対して保護者が5~6、中学校では1対10~12くらいの割合で負担している状況もわかっており、教員の自腹問題はその陰に隠れてしまっています。文部科学省も『子供の学習費調査』は行っていますが、教員の自己負担に関する調査はなく、外部のデータも全教による10年ほど前の調査くらいしかありません。しかし本来、公費で行われるべき公教育が、個人のお金でやっと成り立っているわけです。近年、Twitterなどで教員たちが声を上げ始めて問題の一端が顕在化してきましたが、もっと多くの人に問題意識を持ってほしいです」
そう強調するのは、「いつまでも教員が自腹を切っていると、すでに大きな問題になっている保護者負担を減らすことにもつながらないから」だと福嶋氏は話す。確かに「人の子のためにこんなに自分は負担している」という感覚のままでは、保護者負担を減らすことに本気にはなれないだろう。
「例えば、数年後にはGIGA端末の費用も保護者負担になり、教員使用分も教員自身が準備することになる可能性が高い。公費の不足を保護者や教員が負担することが当たり前になってしまっていますが、公教育はどうあるべきか、教員の方々にこそ考えていただきたいです。保護者も実態を知らないだけで、教員に自己負担を望んでいるわけではありません」
事務職員や管理職がカギ、学校も「当たり前の見直し」が必要
長年の慣習のようになって見過ごされてきた教員の自腹問題。解決するにはどのようなことが必要だろうか。
「2018年~19年に行った私たちの調査によれば、公立の小中学校の3分の1が、年間200万~300万円の予算で運営しています。多いところでも、せいぜい年間1000万円ほど。例えば紙代だけで約40万円、備品で数十万円、修繕費も100万円ほどがあっという間に消えるのに、公費が少なすぎます。まずはここを国が増やすべきです」