社会問題伝えるたかまつなな、祈るだけの「日本の平和教育」は転換期と語る訳 平和はつくるもの、ウクライナ取材を教材に

――ウクライナの方たちは、今度の戦争をある程度予想していたのでしょうか。
いいえ。クリミア侵攻があったのに、多くの人が、ロシアが攻撃を開始した2月24日までは、まさか攻めてくるとは思っていなかったようです。終戦後の日本でも「戦争が始まったと感じたのはいつか」という質問に対して、身近な人が亡くなったり戦争に駆り出されたりして、初めて実感した人が多かったようです。その点は、かつての日本とウクライナも同じで、直接的な被害がないとなかなか実感しにくいのかもしれません。
「戦争を回避するために、どうすればよかったと思うか」という質問にも、さまざまな答えが返ってきました。「ロシアとの間に壁を造るべきだった」「侵攻をためらうような経済大国になっていたら違った」「NATOに入るべきだった」「武器をもっと準備しておけばよかった」など。もちろん現実的なものばかりではありませんが、皆さん一家言持っており、真剣に考えていることがわかりました。
私が日本人ジャーナリストだと名乗ると、「ロシアと隣同士だけど、大丈夫か」「北方領土はどうなるんだ」「気付いてからでは遅いから、その前に準備しておいたほうがいい」などと心配されました。戦争で苦しんでいる人たちから逆に心配されて、複雑な心境でした。
日本はもっと平和教育、政治教育に力を入れるべき
――今回の取材を通して感じたことは。
日本も決して例外ではないと感じました。近隣には北朝鮮、中国などによる脅威があり、対岸の火事ではありません。もっと危機感を持って、日本は何をすべきか考えたほうがいい。「防衛費を増やす」「外交を通じて他国と信頼関係を築いておく」「国際社会を味方につける」など、いろいろな意見があると思いますが、1つは民主主義を強固なものにしていくことが大切だと思います。そのためにも、若い人がもっと政治に関心を持って選挙にも参加してほしいです。
ドイツは平和学習が進んでいる国の1つですが、学校で授業を見学した際は「なぜ戦争が起きたのか」「決定者はどういう判断で戦争に突入したのか」について徹底的に討論していました。平和学習の奥深さを感じましたね。「平和をつくるためにどうすればいいか」について街頭インタビューもしてみたのですが、皆さんきちんと答えられる。中には「買い物を考える」という答えもありました。自分たちが買っているものが戦争を招いている可能性があるというエシカル消費の視点ですが、平和をつくるのにできることはたくさんあって、ドイツの方は普段から考えているんです。
政治の授業もそうです。スウェーデンは、選挙の投票率が8割を超えているのですが、学校教育の賜物だと思います。例えばある学校では、LGBTの生徒が使う個室のトイレを、代表生徒が学校と交渉して設置させました。生徒が自分たちで代表者を選び、要望を託して学校を変えていく。実は政治もその延長線上にあって、そういう経験をしてきた生徒たちは、政治を身近に感じるようになるのです。政治家は特別な存在ではなく、過度に期待したり、逆に偏見を持ったりすることもなくなります。
一方、英国では小学校高学年の授業で、「社会を変えるには、署名活動、市民活動、選挙、政治家との面談など、いろいろな手法がある」ということを教えていました。学校で習ったことが、政治と陸続きになっていると感じましたね。
――日本でそういう土壌が育たないのはなぜだと思いますか。