女子新御三家の吉祥女子、「脱・進学指導」が生徒主体の決断と自立を促す訳 理系・文系・芸術系も…多様な進路支える教育

「小6で出来上がっている子はいない」どんな子どもも歓迎
桜蔭と女子学院、雙葉の3校を指す「女子御三家」とも比肩するほどの飛躍を続ける「女子新御三家」。吉祥女子中学・高等学校は、その一角を成す1938年設立の学校だ。高校での募集を中止し、完全中高一貫校となったのは2007年。それから現在に至るまで着実に人気を伸ばし、中学受験熱の高まる昨今も注目を集めている。
だが校長の赤沼一弘氏は、「近年になって特別始めたようなことはありません。建学の精神である『社会に貢献する自立した女性の育成』を目指し、変わらずに基礎を大切にしながら教育を続けています」とさらりと語る。
「本校は、地理学者で帝国書院の創設者である守屋荒美雄(すさびお)氏と、その息子で数学者だった美賀雄(みかお)氏という2人の研究者によってつくられた学校です。女性の教育といえば良妻賢母教育がメインだった時代に、女性の自立を掲げて創立されました。ここでの6年間での学びは、大学受験をゴールにするものではありません。精神的に自立し、生涯学び続ける人になってほしい。さまざまな学びや行事、学校生活を通して、この思いをつねに生徒に伝えています」

吉祥女子には、建学の精神にのっとった3つの校是がある。「知的探究心を育みましょう」「言葉と行動に責任を持ちましょう」「互いの価値観を尊重しましょう」というもので、これも同校が育てたい人物像をよく表している。とくに2つ目と3つ目を指して赤沼氏はこう説明する。
「SNSなどの発達で誰もが発信できる時代になりましたが、だからこそ責任を持って行動することが重要です。荒美雄先生も当時から日本社会の同調圧力には苦言を呈していました。本校では友達と意見を出し合って議論しながら、異なる相手をも受け入れて認め合うことを重視しています」
この姿勢は受験生に対しても変わらないようだ。赤沼氏は「どんな子どもに入学してほしいか」という問いに対しこう答えた。
「よく聞かれることですが、私は『どんな子どもでもいい』と答えています。小学校6年生で自分が出来上がっている子どもはそうそういませんよね。学校が『こうであってほしい』という姿を押し付けてしまうと、伸びるものも伸びなくなってしまうおそれがあると私は考えています。本校での学校生活でいろいろな経験をして、その中で考えたり感じたりしながら成長してもらえればいいのです」
生徒の思いに応える環境を用意して、主体性を育てる
赤沼氏の「大学受験がゴールではない」という言葉を受けて語るのは、同校広報部部長で理科担当の杉野荘介氏だ。
「本校で行うのは、あくまで『進路指導』であって『進学指導』ではありません。重要なのは卒業後の生き方も含めて生徒が主体的に考えることであり、単にどの大学を目指し、受験するかを指導しているわけではないからです」
同校の進路指導はとてもきめ細かい。校内にはさまざまな大学の資料がそろい、学校説明会などの告知も目に入りやすい場所に掲示されている。専任の教員に相談できる環境も整っているが、すべては「生徒主体の決断」を促すための環境づくりだという。