アメリカの金融政策が、今世紀に入ってもっとも難しい舵取りを迫られている。インフレ高進を避けつつ、経済失速のハードランディングを避ける必要がある。
アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)がハト派とタカ派の両面が入り交じる「複雑な対話」を始めた。
11月1~2日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)後の声明では、利上げペースの減速が示唆された。一方、FOMC後の記者会見でFRBのパウエル議長は、政策金利の最終的な水準であるターミナルレートは「より高くなる」と述べた。
利上げペースの減速というハト派的なメッセージと、ターミナルレートに関するタカ派的な発言が混在したのは、インフレと戦う姿勢を維持しながら不況回避も目指したい意向がうかがえる。視界不良下の操船に例えて、FRBが氷山(不況)との激突を回避できるかどうかを考察してみたい。
経済のハードランディングは不可避か
「FRBパウエル議長、『3度目の汚名返上』への難路」で解説した通り、FRBは今世紀に入って最も難度の高い利上げ局面に突入している。
金融政策の舵取りは、車や船、飛行機などの操縦に例えられる。操船で言えば、視界は極めて不良であり、迫りつつある巨大氷山(経済のハードランディング)との激突を回避するという、「ミッション・インポッシブルの操船を余儀なくされている」(外資系ファンド幹部)。現状では、残念ながら氷山との激突は不可避にも思える。
今回のFOMCにおける最大の注目点は、声明に「これまでの累積的な引き締めと、それがラグをもって経済とインフレに与える影響を考慮する」との一文が加えられたことだ。これは、これまでの大幅な利上げが経済・物価にどの程度の影響があったのかを見極めたい、との考えを示したものだ。
加速するインフレにブレーキをかけるべく、積極利上げに邁進してきたが、そろそろ効き目を確認し、必要なら利上げペースを落としたい、という意向を示したものだ。過剰に引き締めて景気を過度に冷やす「オーバーキル」を回避するうえでは「賢明な判断」(大手邦銀アナリスト)と評価していいだろう。
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