都立高校入試に「中学校英語スピーキングテスト」活用を強行する危うさ 目前でESAT-J中止求めて反対意見が高まる訳
さらに保護者の声で多いのは、個人情報の取り扱いの問題だ。テストの運営を担うベネッセは、2014年と20年の2度にわたりグループ会社で大規模な個人情報の漏洩を起こしていて、当時被害に遭った家庭も多くあり不安につながっているようだ。
福井県が「スピーキングテスト」を見送った理由
これまでに「スピーキングテスト」の入試への活用を検討し、結果的に見送った自治体がある。全国学力テストの上位常連県としても知られる福井県だ。
福井県では2018年度、話す力を県立高校の入試で評価するために、スピーキングテストのある英検を入試の点数に加点する制度を導入。英検3級は5点、準2級は10点、2級以上は15点で、英語の学力検査の得点と英検加点を合計し、上限は100点とする入試を実施した。19〜20年度には、英検取得による加点幅を各学校、学科がそれぞれ指定する3級以上または準2級以上に5点へと加点を見直した(上限は同じ)。
だが18年〜20年度と3年間実施した後に21年度には廃止している。「英語力の向上を目的に英検加点制度を導入したが一定の成果が得られたこと、受験者の過半が対象級を取得し、差が付きにくい状況になったことも大きい」と福井県の担当者は廃止になった理由をこう話す。
実際、英検3級の取得率が16年度に46.5%だったものが、19年度に61.4%まで向上。現在も福井県は、外部検定料の補助事業を通してスピーキング力の育成には継続して取り組んでいる。
当時の議論について担当者は「将来的なスピーキングテストの導入に向けた検討も行いましたが、周りへの音漏れの問題などは解決したもののコストや約2カ月にも及ぶ採点期間の問題で見送りを決めました」と話す。ただ、東京都の高校入試におけるスピーキングテストの導入状況や課題を分析して、他県の動向も踏まえて導入について慎重に検討するという。
こうした自治体は、福井県だけではないだろう。今年、東京都が都立高校の入試にスピーキングテストの活用を強行した場合、その後ほかの自治体へと広がる可能性は否めない。グローバル人材の育成、話す力の向上、そのためのスピーキングテストの導入は、多くの自治体が視野に入れているからだ。実際、来年度の全国学力・学習状況調査でも、中学校英語の「話すこと」調査をCBTで行う予定だ。
だからこそ、問題点があるならばクリアにしてから実施すべきではないだろうか。スピーキングテストの内容や実施方法についてはさまざまな意見があるものの、「やるからにはちゃんとやるべき」というのは専門家も保護者も視点は同じだ。
19年度からプレテストなどを重ねて準備してきた割には説明、周知不足なこと。制度上の問題点に対しても、指摘に対する十分な説明がはたしてあったと言えるのか。理解を得てから導入するのでは駄目なのか。公平性を担保すべき入試ゆえに、何より優先すべきことではないだろうか。
(文・編集部 細川めぐみ、注記のない写真:cba / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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