2020年度より、小学校3・4年生から英語教育が必修化された。これを受け、2021年秋、子どもたちの可能性を引き出す非認知能力の向上につながる多様なコンテンツを展開する一般社団法人ダヴィンチマスターズでは、全国の小学校3〜6年生の児童とその保護者405名に「英語に関する小学生の意識調査」を行った。
アンケートで「英語の授業は好きですか?」という質問に対し、「好き」と回答した割合が約7割であったことは、ほかの教科と比較しても高く、子どもたちは英語の授業を楽しんでいることがわかる。一方で、3割の児童は「嫌い」と回答。その理由として、「英語を聞いても何を言っているかわからない」などの回答が目立った。
英語が「嫌い」なのは指導法に原因も
――この調査結果をどう捉えたらよいでしょうか。
小学校の先生が、ぺラペラと一方的に英語で話すことは考えにくいことから、授業で使用するリスニング教材の難易度が高い可能性があります。ほかにも、英語が嫌いな理由として「アルファベットを書くのが苦手」「単語を覚えられない」という回答も多い。「正確に書けているか」「できたかできないか」などに焦点を当てすぎた指導になると、アルファベットや単語を覚えることが、子どもにとって“苦行”になってしまうことにつながります。
――新学習指導要領において、小学校3・4年生は年間35時間(週1コマ)で「聞く」「話す」が中心の授業、小学校5・6年生は年間70時間(週2コマ)で、「聞く」「話す」に加え「読む」「書く」の英語の授業が行われています。
小学校の先生は、「ご自身が小学校時代に英語教育を受けたことがない」「英語の指導法を学んでいない」というケースが少なくなく、自治体や学校単位で英語教育研修を受けたり、個人で学んだりしながら指導法を試行錯誤しているのが現状です。
こうした指導経験不足などから、必要以上に英文を書かせようとしたり、「できるかできないか」だけの視点で評価してしまったりなどが、子どもたちが英語に対して苦手意識を抱く背景の1つとして考えられる側面もあるでしょう。ただ、先生方は、もともと“教えるプロ”ですので、研修などでヒントを差し上げると、積極的に英語の授業に関わっていきます。長年全国の教育委員会や小学校で英語研修や講演を行っていますが、2年間指導させていただくと、皆さん教え方が本当にお上手になっていきます。
子どもたちの主体的な言語活動を重視する
――新学習指導要領の導入により、5・6年生は英語が「教科」となり、通知表に成績がつきます。
評価の観点は、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つ。「表現がきちんと覚えられている」「単語をきちんと書ける」といった「知識・技能」だけでなく、「間違えてもいいから自分の考えを表現できる」などの思考力や表現力、「ICTを工夫して使いながら学んでいる」などの主体性にも注目して評価を行うことが非常に大切です。
ペーパーテストの結果だけを重んじるのではなく、主体的・対話的で深い学びが実現できているか評価するためには、子どもたちの主体的な言語活動を重視する必要があります。評価観点をいま一度見直したうえでご自身の授業も見直し、授業改善につなげてほしいですね。これが、「指導と評価の一体化」につながります。
――「主体的な言語活動」とは、どのような取り組みを指すのでしょうか。
例えば、haveという動詞を、例文を用いて教科書どおりに教えようとすると、「Do you have a book?」「Yes, I do.」「Do you have a pen?」「No, I don’t.」など、教室にいる子どもたちの目の前にある“筆箱と文房具”の話題だけで完結してしまいがちです。視点をもっと広げ、「お友達のおうちにあるもので、haveを使って英語で聞いてみたいものはある?」と子どもたちに聞くと、子どもたちは、「お友達の家には何があるかな」「自分の家にあるもので、英語で言えるものはあるかな」など、興味がぐっと湧いてくるものです。
そこで、「Do you have a garden?」など、まだ学校で習っていない単語を用いる子が出てきたら、みんなで「garden」を辞書で引いてみたり、その問いに対して「Yes, I do.」と答えた子がいたら、「その子に対してもう1つ、英語で質問してみることはできる?」と促し、「Is it small or big?」とさらに会話を深めることにより、コミュニケーションの幅が広がりますよね。このように、自分の考えや思いを伝える言語活動に重きを置くことで、子どもたちの主体性も育っていきます。
よい意味での「遊び心」を授業に取り入れる
――小中一貫で英語教育を推進するうえで大切なことは何でしょうか。
英語教育で大切なことは、小学校も中学校も変わりません。英語の授業では、1. 必然性のある言語活動を重視し、2. 口頭で何度も反復する時間を意識的に設けること、3. 例えば英語を使ったゲームや練習を行う場合は日本語で長いルール説明をするのではなく、なるべくシンプルに英語でモデルをやって見せて活動に入ること、4. 暗記だけではなく、子どもたちが自分で考えたりICTなどを使って自分で調べたりしたことを発表できる機会を設けること、5. 例えば食べ物の単語や表現を習ったら、その週は日直さんが「I like steak.」など朝のあいさつに取り入れたり、給食の時間に給食当番さんが「Today's menu is fried rice and milk.」と発表する機会をつくるなど、授業以外の時間に英語を取り入れること。この5つを意識していただくだけでも、授業は変わっていくと思います。
1. 必然性のある言語活動を重視
2. 口頭で何度も反復する時間を意識的に設ける
3. 日本語で長いルール説明をせずにシンプルに英語でやって見せて活動に入る
4. 子どもたちが自分で考えたり調べたりしたことを発表できる機会を設ける
5. 授業以外の時間に英語を取り入れる
教科書や音声教材などを子どもたちに向け「いきなり読む」「いきなり聞かせる」のではなく、音声教材を聞く前に関連したイラストを見せながら「ここはどこかな?」などと英語でやり取りをしたり、英語の絵本を読む前に、絵本のテーマに沿った質問をしてみたりなど、よい意味での“遊び心”“推測して考える”を大切にすることが、子どもたちの主体的な学びにつながるのではないでしょうか。
――急速に進むグローバル化で、子どもたちには英語を話す能力がますます求められる中、教員の英語指導力向上が急務になっています。佐藤さんは、教育委員会や各学校での研修に加え、幼児期からの英語教育の有効性や重要性についての研究活動や研究結果の発信を行う民間の研究機関「ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(Institute of Bilingual Science)」(以下、IBS)とも関わり、同研究所が主催する小学校教員や専科の教員向けの勉強会にも講師として参加しています。
これまでIBSが主催した小学校教員向けの英語活動に関する勉強会では、英語学というバックグラウンドで理論に基づく指導法を提供してきました。英語の授業の雰囲気づくりや教室英語の練習だけでなく、教科書プラスワンの活動を行い子どもたちの「楽しい!」「話したい!」という意欲を引き出せるよう、理論に基づく具体的な活動を、ワークショップ形式でお伝えしています。この勉強会は、小学校の現場の先生方にとって英語活動に関する相談ができる場ということで、大変意義のある活動となっています。今年も春、秋に実施予定ですが、今後もこのようなサポートを定期的に行っていきたいですね。
保護者は子どもの英語学習に興味を持つことが大切
――学校での英語学習の成果を発揮するために、親は家庭でどのような関わりを心がけたらよいでしょうか。
大切なのは、子どもの英語学習に興味を持つこと。家で宿題に取り組んでいたら、「こんなこと習っているんだね」「この動画、面白いね」などと声をかけ、関わってあげることがいちばんだと思います。
また、ちょっとしたときに「これは英語で何て言うんだろう」と調べられるように、リビングなどに小学生用の英語の辞書を置いておくとよいでしょう。辞書は、和英と英和が一緒になっているタイプのものをお薦めします。英和辞典には例文や単語の使い方も紹介されているので、和英辞典で日本語を英語で言えるようにするだけではなく、一緒に調べながら学びを広げることができます。英語が好きという保護者の方はもちろん、英語が得意でないという方も、子どもと一緒に学ぶ感覚で、「いつか海外旅行に行って、英語で買い物したり、レストランで注文したりできるようにしようね」など、共通の目標を持つようにするのもいいですね。
――最近は、小さい頃から英語教室に通う子どもも多いですね。
親が無理やり通わせるのではなく、本人が「行きたい」「先生や友達と英語を話せてうれしい」など、楽しく通えているかどうかに注目しましょう。英語教室に通い始める場合は、体験レッスンを受け、保護者の主観でなく子ども本人に選ばせ、子どもにとって相性のいい教室に行くことをお勧めします。「人前で話すことが苦手」というお子さんが多い印象がありますが、英語を一生懸命聞いて、話して、コミュニケーション能力を磨いてほしいと思います。
(企画・文:長島ともこ、注記のない写真:Greyscale / PIXTA)