自らも発言し、議論に飛び込んで探究学習を深める「ジェネレーター」とは 創造的で軽やかな教員が子どもの思考力を育む

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「私が入っていないときには、彼らは自分たちで頑張っているわけです。いつも教員がべったり入っていたらやりにくいでしょう。私は限られた短い時間でギュッと貢献する。そのくらいがちょうどいいのです。程よい接点で、自由と自律のバランスが取れた活動になります」

井庭氏が尋ねた際に経緯を説明する力、必要に応じて助言を求める力、それを取り入れて自分たちで問題解決に取り組む力など、教員の手が入りすぎないことで伸びる力がある。また、うまく回っているグループほど井庭氏の助けを求めず、それでいて学生自身の満足度も高いのだそうだ。こうしたグループではプロジェクトの成果も自然といいものになり、たまに顔を出すだけでよくなる。井庭氏も自律のプロセスと優れた結果の両面で評価することができるという。

ただし「目指したいのは『よいものをつくることを経験する』ということ。『評価のための活動』という捉え方にならないように注意したい」ともアドバイスする。

教員も創造的に考え、「思考プロセスのタネ明かし」をする

ティーチャーでもファシリテーターでもなく、ジェネレーターである教員が子どもたちに伝えるものとは何か。それは「発想の仕方」だと井庭氏は言う。

「ジェネレートされた場の最大の目的は共によりよいものをつくること。そして自分だけではたどり着けない高い水準のアウトプット体験を通じて、子どもたちがその思考プロセスや粘り強い努力の大切さを学ぶことです。教員と子どもには、知識や経験の面で差があって当然です。だからこそ、いいものを生み出すために、ジェネレーターとして共に参加し、出し惜しみせずに発言してほしいのです。目指すのは、共に高いレベルを達成することです」

井庭氏が出したアイデアに対し、学生や子どもが「それいい! どうしてそんなことを思いつけたのですか?」などというリアクションを見せることがある。優れた発想はまるで「魔法」のように見えるが、それは魔法ではなくタネも仕掛けもある「手品」だ。タネは積み重ねた経験や知識であり、井庭氏はそのタネ明かしを丁寧に行う。すると学生は次のプロジェクトでそのタネや仕掛けを、つまりそこで知った思考プロセスを自分で試してみようと考えるのだ。井庭氏の研究室ではジェネレーターを目指す学生も多い。教員の振る舞いや思考方法を見て上級生が学び、その先輩を見てまた後輩が学ぶというスパイラルも発生している。

井庭 崇(いば・たかし)
慶應義塾大学総合政策学部教授および同大学大学院政策・メディア研究科委員。専門は創造実践学(パターン・ランゲージ)、創造哲学(自然な深い創造)、未来社会学(創造社会論)。株式会社クリエイティブシフト代表、一般社団法人みつかる+わかる理事なども務める。『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』『プレゼンテーション・パターン:創造を誘発する表現のヒント』(いずれも慶應義塾大学出版会)、『ジェネレーター 学びと活動の生成』(学事出版)など著書・共著多数。

正解のない問いに向き合う探究学習において、単なる答えでなく、こうした発想の方法を見せることはとても重要だ。そのためには教員が創造的であることが欠かせない、と井庭氏は考えている。

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