学歴社会・中国「素質教育」重視へ、「有名大学に入れなければ人生終わり」に変化 勉強一辺倒から様変わり、海外留学も増加

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増える海外留学、欧米に比べ「安心、安全、安価」な日本留学

そうした意識変化の背景にあると思われる要因の1つがネットの発達、そして経済的なゆとりから増える海外留学という選択肢だ。中国では2013~14年ごろから急速にスマホが普及し、「自媒体」(自分メディア)と呼ばれるSNSが発達。教育も含め、多方面の情報が爆発的に増えた。経済的に豊かになり、海外在住の中国人からもたらされる情報も増えた影響で、留学の道を選択し、高考を避ける人も現れ始めた。

大都市にある重点高校のほとんどに「国際班」と呼ばれる全員が留学を前提としたクラスが1~2クラス以上、設置されている。筆者が17年に北京の高校生から聞いた話では、当時、その学生が通う高校は1学年約1000人で、クラスは20以上もあり、そのうち6クラスが国際班だったという。一般クラスであっても、高校卒業後、留学を選ぶ学生もおり、筆者が00年に取材した別の高校生は、一般クラスに在学中に日本語の塾に通い、日本に留学した(クラスのもう1人はドイツに留学したという)。

北京市内にある高校の様子
(写真:中島恵氏提供)

一般クラスに在籍中、日本など海外の私立高校に短期留学できる制度も多数設けられている。中国の中学・高校には全員参加を前提とする日本のような修学旅行はほとんどないが、コロナ禍前、夏休みに欧米のサマースクールに参加する中間層以上の学生は非常に多かった。つまり、中国の高校生たちにとって、海外はそれほど身近な存在となっている。

中国から世界への留学生数について、19年の中国教育部の統計で最も多いのは米国で約41万人だった。米国の留学生の約3割以上が中国人といわれている。ほかに留学先で多いのはカナダ、英国、オーストラリア、ニュージーランドなど。日本への留学生も多く、21年5月1日時点の文科省の調査では、約11万4000人で、留学生の中では断トツでトップだった(2位はベトナム人で約4万9000人)。

コロナ禍により日本への留学生数は全体的に減少しているが、中国人の減少幅は比較的少ないのが特徴だ(20年度の日本学生支援機構のデータでは、ベトナムからの留学生の増減率はマイナス15.2%だったが、中国は同マイナス2.1%だった)。中国人にとって日本留学は欧米などに比べて「安心、安全、安価」といわれ、とくに女子学生の場合、治安面などで不安が少なく、近距離であることから、家族も日本行きを勧める傾向がある。

丸暗記中心から全人格的な教育を行う「素質教育」重視へ

学生の意識変化をもたらした要因の2つ目は、2001年に中国教育部が打ち出した「基礎教育課程改革要綱」の発布だ。従来、科挙の伝統からあった丸暗記の学習を中心とする応試教育(受験のための詰め込み教育)が主流だったが、人間性を育て、全人格的な教育を行う素質教育が重視されるようになってきた。具体的には外国語教育と芸術分野、スポーツ教育の充実だ。

高考の外国語科目では英語のほか、ロシア語、日本語、フランス語など5カ国語を選択できるようになった。現実的には英語で受験する学生が今も圧倒的に多いのだが、ここ数年増えているのが日本語での受験だ。日本語を選択する学生は約10万人以上で、全体から見れば少ないが、近年は「試験問題が全国統一で、高校1~2年の短期間だけ勉強しても間に合う」という理由で急速に人気が出ている。

背景には、全国の高校に配置されている日本語教師の存在がある。1年前、筆者が電話取材した貴州省の山間の高校(生徒数約2000人)の教師によると、同校には日本語教師が5人いて、高考で日本語を選択した学生は150人以上もいたと聞いた。

スポーツや芸術分野の教育にも熱心に取り組んでいる。昨年、上海の私立小学校に子どもを入学させた筆者の友人によると、放課後、専門の指導者が学校にやってきて、週に2~3回、無料でテニスを教えてくれるという話だった。個人的にトレーナーや指導者を雇わなくても、複数のスポーツ競技やピアノ、バイオリンなどの指導も校内で受けることができるシステムになっていて、その友人自身も、子どもを入学させて初めて知ったと話していた。コロナ禍でオンライン教育も盛んになっており、海外で活躍する中国人の芸術家や、有名プロからオンラインで学ぶ機会もあるという。

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