「日本には、起業家が少ない」その根本的な原因が、教育にあるといえる理由 「人と違う、失敗を奨励する」ことが重要な訳
――朝倉さんは起業家を増やすために、どのような起業家教育が必要だとお考えですか。
例えば学校教育の科目に起業家教育を入れたとしても、あまり効果はないと思っています。日本で起業家教育を導入しようという機運が高まっていますが、知識レベルの話を科目として導入したとしても、付け焼き刃に終止することでしょう。それよりも私はもっと本質的な教育の抜本的な改革が必要だと思っています。それは教科や知識の話ではなく、思想や行動指針というべきものです。
日本の公教育については海外と比べて優れた点も多いと思っています。しかし、工業社会に非常に効果を発揮した教育方針だったがゆえに、時代が変わったにもかかわらず、今もなかなか変わることができず、さまざまな矛盾が露呈しているのだと見受けられます。時代の変化に対応し、新たな教育を進めていくには、その基本となる部分、思想や行動指針、PCに例えるなら、OSの部分を変えていく必要があると考えています。ここを変えずして起業家教育のような新たな科目を導入するということは、言うなれば古いOSに最先端のアプリを搭載しようとしているようなもので、機能不全を起こすとしか思えません。
――公教育のOSを新たなバージョンに進化させるには、どうすればいいのですか。
それこそ、根本的な考え方から変える、つまり「失敗を奨励」したり、「人と違うことを全面肯定」したりするべきでしょう。公教育ですぐにドラスティックな変化が起こせないなら、家庭内のコミュニケーションから変えていくのもよいのではないでしょうか。日常生活の中で、子どもに「自分はどう考えるのか、どうしたいのか」を問うてみる。それで失敗してもいい。そこから学べばいいのです。そして、大人から正解を押し付けないことです。そもそも変化の激しい時代に大人が的確な答えを持っているわけではない。だからこそ、子どもたちが自ら考えて、自ら失敗することが大切なのです。
――朝倉さんが先生なら具体的にどうしますか?
「北風と太陽」の寓話(ぐうわ)の太陽のように、生徒が自ら動きたくなるような環境や機会をつくっていくことが欠かせないと考えています。また、「人と違う」ことを肯定するために、自分自身がマイノリティーとなる経験をすることも必要だと思います。日本で暮らす日本人は、自分がマジョリティー集団である環境で生きている人が多い。自身がマイノリティーに置かれた経験がなければ、マイノリティーの立場に置かれた人の視点を持つのは難しいのです。海外留学は、マイノリティーを体験するという点においても、とてもいいですね。気づくことがたくさんあるはずです。私たちはよく「普通はこうだ」という表現を耳にすることがありますが、すべては相対的なもので、普通って何だろう、そもそも「普通」なんてものは存在するのだろうか、と思います。
――他国と比較すると、同質性の高い日本という国において、勇気を持って人と違う選択をするためには、どうすればいいのでしょうか。
同質性の高い社会で人と違うことをするには、周りに何を言われても、貫き通す強い意思や、ストレス耐性が求められます。だからこそ、私は孤独に強くなることが非常に重要になってくると考えています。
起業家的な生き方はもしかしたら、極端な例かもしれません。しかし、起業家的な考え方がなければ、次の時代を切り開いていくことはできません。とくに将来を見通せない時代に、子どもたちが自分らしく生き残っていくには、人と違うことをする、リスクを取る、そして何事も自分でまず考えてみること。それが何よりも大事だと私は思っているのです。