「ゲーム・オブ・スローンズ」新作に待ち構える試練 「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」の配信に紆余曲折

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とは言え、8シーズンも続き、終わってからも常にHBO Maxのトップ10に入ってきた『ゲーム・オブ・スローンズ』をシリーズ展開することには、単発の映画にはない価値がある。

ザスラフは、DC映画について、マーベルにならい、10年先までプランを立てつつ作っていくつもりと語っているが、『ゲーム・オブ・スローンズ』もマーベルのような大規模なシリーズに広げていくことは可能だ。ザスラフがそこを認識しているのは間違いないし、彼もHBO Maxには力を入れると言っているが、それでも第2シーズンを発注するかどうかにおいて、採算が見合うかどうかをこれまで以上に厳しい目で見るのではないかと想像される。

Amazonプライムが対抗

さらに、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』には、オリジナルにはなかった懸念案件がある。9月2日に、ライバルのAmazonプライム・ビデオで、『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』が配信されるのだ。

ピーター・ジャクソンが監督した『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の1000年前を舞台にしたこのシリーズは、「うちでも『ゲーム・オブ・スローンズ』のような作品をやりたい」と強く願ったアマゾン会長のジェフ・ベゾスが、自ら権利の交渉に乗り出して実現したもの。配信史上最も高額な予算が投入され、少なくとも5シーズン作ることを計画していると言われている。

劇場用映画であれば、ターゲット層を同じくするライバルスタジオの映画が公開される週末を避けるのが常識。もしぶつかってしまったら、どちらかが動く。だが、この2つのシリーズは時期が重なったのに、どちらも動いていない。配信される曜日は違うし、ファンは両方見ることを厭わないだろう。しかし、同時進行となったことで、なおさら比べられてしまうのは必至だ。そうなっても大丈夫という大きな自信が、この2つにはあるのかもしれない。

もちろん、そうでなければどちらにとっても困るのだ。とくに『ゲーム・オブ・スローンズ』に関しては、現時点でもほかに5本ほどのスピンオフの企画が進行しているという。

幸いにも、初回は、新作ドラマデビューとしてはHBOの歴史で最大の成功となった。しかし、この後も『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』がこの勢いを保ち続けるかどうかは、それらの企画にも影響を与える。世界中にいるファンとは違った意味で、多くの人がこの新作ドラマの行方に注目している。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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