時間短縮だけの「働き方改革」でなく、教員が笑顔でいられる学校づくりを 小樽市立朝里中・森万喜子校長の思う「本質」は

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「教員が忙しいのは確かなので、仕事はシンプルにしたい。実の伴わないことは、たとえほかがみんなやっていてもやめることにしました。学校はどうしても、どこかで横並びの意識が働く場所です。そうしたことには『それ、本当に必要?』と疑問を投げかけ、本質を思い出してもらいたいと考えています」

「校長になりたい」「教員になりたい」と思える学校へ

先進的に見える朝里中だが、実は時代に逆行しているように思える面もある。例えば森氏は、事前の根回しですぐ合意を見るような会議をよしとしない。議論が深まらず、承認のためだけに行われる会議は本来の目的から外れているからだ。

「時間短縮のために先に方向性を決めて行う職員会議は、スムーズに進むように思えますが、リーダーや担当者以外が発言しづらくなります。意見が言えない環境になってしまうことは避けなくてはいけません」

また、近年は保護者からの過度の干渉を制限する学校もあるが、朝里中では学校から保護者に連絡することも多い。

「保護者は子どもが朝登校したら、笑顔で帰ってくることが当たり前だと思っています。でも実際は学校でトラブルが起きて、笑顔で帰せないこともある。そんなときには、『今日こんなことがありました。心配かけちゃってごめんね』と先に情報を共有しておいたほうがいいと思っています。保護者側からも相談があれば聞かせてほしいし、私自身が1対1で話すこともよくあります」

保護者からはむしろ「相談していいんですか?」「校長先生が聞いてくれるの?」という反応もあるという。それに対し森氏は「私たちは子どもの幸せと成長を願う同志じゃないですか」と答える。

「教員というのは、必ず突発的なことに時間を割かれてしまう仕事です」と言う森氏。だからこそ減らせる仕事を減らし、負担の大きい行事などのスリム化を図ってきた。さらに「基本的にはお任せしますが、孤立はさせません」と、チームで教員をサポートする体制を整えている。新しい取り組みが生んだ時間の余裕と体制が、古きよき学校ともいえる、家庭との距離が近い環境をつくっているのだ。

「本校の最大の特色を挙げるとしたら、おそらく生徒一人ひとりを大事にしていることだと思います。とにかくこの一点に尽きます」

森氏はこう語るが、これこそまさに「学校教育の本質」ではないだろうか。そこに注力することで優先順位が明確になり、その結果として、時間の使い方をはじめとするさまざまな問題が改善されている――これが朝里中の現状だ。フラットでストレスフリーな職場で働く若手教員が、「管理職をやってみたい」「校長になりたい」と言ってくれるようになったと森氏はほほ笑む。さらにうれしいことも起きている。

「生徒たちに進路希望を聞くと、教員になりたいと言う子どもが増えてきました。理由を聞くと『先生たちが楽しそうだから』と。教員たちにはそういう姿を生徒に見せ続けてほしいし、いつも笑顔でいてほしい。自分たちが働く環境を、自分たちで変えていってほしいと思います」

森氏は今年が朝里中で校長を務める最後の年。「あと少しですが、学校づくりは楽しいよということをもっと伝えていきたいですね」と語った。

(文:鈴木絢子、注記のない写真:Ushico / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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