時間短縮だけの「働き方改革」でなく、教員が笑顔でいられる学校づくりを 小樽市立朝里中・森万喜子校長の思う「本質」は
はたして文化祭当日には、生徒たちの自主制作によるイラスト、動画、コントやダンスも披露され、生徒同士も互いに知らなかった一面を知ることができた。「来年もこの形でやりたい」という声が95%を超え、シンプルになった文化祭は大好評だったそうだ。

(写真:森氏提供)
若手もベテランもフラットに、実 を取る体制を徹底
森氏が心がけているのは、「チャレンジする若手、それを支えるベテラン」という構図だ。自身も若い頃、新しい提案をするたびにベテランの非難を浴びてきた。その経験から「職場はフラットに」という意識を強く持っている。
「会議ではつねづね『前年と同じというのはやめてね』と言っています。若い教員が意見を言えない職場では、新しいチャレンジは生まれません。ベテランにはその意欲やアドバンテージを潰してほしくないし、若手にはベテランに遠慮しすぎてほしくないのです」
朝里中では2年ほど前から、20代教員だけが参加するミーティングを開催している。コロナ禍で飲み会などができない状況でも、悩みを相談し合ったり、ガス抜きをしたりするいい機会にもなっているという。
また、ベテラン教員が「軽んじられた」と不満をためることもないよう配慮している。
「意見があったら陰口や愚痴にせず、私に直接言ってくださいと伝えています。DMをくれてもいい、ささいなことでも遠慮なく話そうよ、と。職員のことはリスペクトしています」
こうしたことを積み重ねて「意見を言いやすい環境」をつくったことで、抑圧的な雰囲気も薄まり、話し合いができるフラットでストレスフリーな職員室になってきたと感じている。その成果の1つが、今年から実施している「数学の定期テストからの脱退」だ。
「定期テストより単元ごとの習熟度を重視する学校は増えていますが、うちではこれが、トップダウンでなく教員から『やってみたい』という声が上がりました。若い教員が生徒の現状分析を行い、明確な根拠を持って提案したので、反対する理由もありませんでした」
単元テストを実施し、1学期の終わりに生徒にアンケートを取ったところ、「単元テストに一本化された今のほうが学びやすい。意欲が湧く」と答えた生徒が圧倒的だったという。若くして学校改革を実践できる経験は、教員のキャリア面でも意義の大きいものだ。森氏はこの取り組みのポイントをこう説明する。
「単元テストへの移行は仕事を楽にするためにしたことではなく、教員が純粋に子どもたちのことを考えた結果です。朝里中の学校教育目標に『果敢に挑戦する人』という言葉があるのですが、教員自身がこうして果敢に挑戦する姿を子どもに見せることは、何よりの教育になると思います」

小樽市立朝里中学校校長
1962年北海道生まれ。北海道教育大学特別教科教員養成課程(美術)卒業。千葉県千葉市で5年間、その後北海道小樽市の中学校美術教員、教頭職を経て校長に。2018年から現職。同年兵庫教育大学教職大学院教育政策リーダーコース入学、修了
(写真:森氏提供)
もちろん、仕事を楽にするためにシンプルにしたこともある。教材費などを現金で集金することをやめ、保護者の口座から引き落とせるようにした。教育委員会の視察がある際に「歓迎 〇〇様」と看板を掲示したり、後日お礼状を送ったりすることをやめた。教育委員会にはその旨を書面で通達したが、「とくに文句も出ませんでした」とあっけらかんと笑う。また、授業案や資料の作成など、教員の負担が大きい公開授業研究会への参加をやめた。その代わりに、希望者はいつでも見学に来ていいということにした。