対話で合意形成する力を育む「本質観取」は小学生でもできるといえる訳 苫野一徳「民主主義の本質に基づく対話の場を」

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「本質観取」を授業に取り入れるコツとは?

――本質観取を学校で行うなら、どの教科がやりやすいでしょうか。

ことさら「本質観取」と言わなくても、「これって何のためだっけ」といったことは、日常的に考え合うといいと思います。あえて教科でといえば、道徳はやりやすいと思います。

本質観取は、自由や幸せといった「意味」や、正しさとは何かといった「価値」について対話しますが、道徳の内容項目はまさに意味や価値に当てはまるのでテーマ設定がしやすいでしょう。ただし、「友情」などのデリケートなテーマを扱うときは注意が必要です。

私のゼミの卒業生で、小学校高学年の道徳授業に本質観取を取り入れた先生がいますが、彼は運動会前に「協力」をテーマにするなど、ホットな話題に寄せていましたね。

――具体的にはどんな流れで進めるとよいですか。

哲学者の西研先生が整備された方法を踏まえて私がアレンジした手順をご紹介しますね。仮にテーマは「自由とは何か」としましょう。

【本質観取の手順】
1.ルールの共有
2.各自の問題意識の共有
3.事例を出し合う
4.共通のキーワードを見つける
5.「これだけは欠かせない」契機を言葉にする
6.当初の問題意識に答えるものになっているか点検

まずは最初に先生と子どもたちの間で、誰もが対等な対話者であることを共有します。「すぐ否定したりけんか腰になったりせず、まずはしっかり聞いて受け止めることから始める」という対話のルールと、「絶対に正しいことはないけれど、みんなで『なるほど』と言えるところを見つけていく」という姿勢を共有しましょう。「発言したくなかったらしなくてもいい」というルールがあってもいいかもしれません。

次に、「自由の本質観取をすると、自分にはどんないいことがあるか」について、グループで話し合い、各自の問題意識をある程度明確にしておきます。

そのうえで、「これって自由だな」という事例をみんなでたくさん出します。すると、「やりたいことができる」「解放感」「わがまま放題では、争いになるから自由じゃなくなるかも」など共通するキーワードが見えてくるはずです。

そしてそのキーワードを深掘りし、「これだけは欠かせない」という契機を言葉にしていきます。以前子どもたちとやったときは、「生きたいように生きられること。ただし、人に危害を加えない範囲で」という言葉になりました。

最後に、当初の問題意識に本質観取した言葉が何かしら答えるものになっているかを点検すると、より本質観取の意義が見えてきます。例えば「どうすれば自由に生きられるか」という問題意識だったら、そもそも何が自分の「生きたいように生きる」なのか知らなければなりませんよね。物事の本質が見えてくると、何をどう考えればよいのか筋道が明確になるんです。

――授業で本質観取を行う先生に取材したところ、「表現力や語彙力が上がった」「話し合いの場で思いを語れるようになった」など子どもたちの成長を感じる一方、「発言を待てずリードしたくなってしまうときがある」「共通了解に至るのが難しい」という悩みも聞きました。ファシリテートのコツはありますか。

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