大阪府・現役高校教員、「過重労働」裁判で勝訴が全国の学校に訴えるもの 一人の教師が実名・顔出しで訴えたことの教訓

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学校は過剰にサービス、仕事を増やしてはいないか

さて、学校に限らず、企業や官庁でも、特定の人に仕事が偏りがちな問題は起きています。ですが、今回の訴訟の西本先生については、1カ月の時間外勤務時間が100時間を超えるときも多くあり、異常な水準でした。そのことを校長、教頭らも認識していました。

とりわけ高校では、小学校と異なり、担当授業コマ数は比較的恵まれていますが、進路指導関連(補習や模試を含む)や部活動、特色ある教育活動等(本件のような海外研修など)で、特定の教員に過度な負担がかかるケースは多々あります。私立などとも競争しているので、どうしても、学習指導要領が求めている以上に教育サービスを拡大させがちです。

指導要領の内容を超えて各学校で取り組むことは、必ずしも悪いことではありませんし、各校の特色づくりや魅力化は大事なことです。ですが、教職員の健康を犠牲にしてよいものではないはずです。

そもそも、ここまで過重な業務負担を課すサービスを高校などが行うべきかどうかという検討が必要です。本件でいうと、生徒の一部(20人ほど)しか参加できないオーストラリアでの語学研修に、若手教員に過労死などのリスクを高めるほどの負荷をかけるというのは、ベネフィットと比べて、コストとリスクが大きすぎるのではないでしょうか。

例えば、英語や総合的な探究の時間などに、オンラインでつないで交流するといった程度であれば、ほかの生徒も参加できますし、負荷もおそらく小さいでしょう。海外でしか体験できないよさもあるとは承知していますが、それは家庭や学校外のサービスで行えばよいのではないでしょうか(経済的な支援などは行政が行ってよいでしょうが)。

また、業務や行事そのものの必要性の検討に加えて、今回のような仕事の配分や分担の仕方でよかったのかどうかも、検証が必要です。西本さんのように若手教員や異動してきたばかりの教員は断りにくいということで、重い仕事を任せられることは、各地で起きています。しかも、西本さんは世界史の担当であり、英語科でもありませんでした。

記録はとても大事!

最後に、この訴訟からは記録の重要性がひしひしと伝わります。西本さんの勤務校ではタイムレコーダーがあったことが大きいです。こうした記録がない場合、校長は教員の過重労働を認識しえなかったなどと、責任逃れをされかねません 。※2

また、休日の部活動等の特殊勤務手当の申請書なども、休日にどれほど従事していたのかの証拠となりました。あるいは前述のとおり、メールでの訴えで、校長は業務の過重性を認識していたことが明らかでした。こうした点からも、勤務記録の過少申告などは大問題です。

大阪府立高校教諭・西本武史さんの裁判から学校・行政が学ぶべきこと
1. 声かけや気遣う程度では、校長は責任を果たしたといえない
2. 校長は教職員の負担軽減や役割分担を見直す場を設けて活用するべき
3. 学校は過剰にサービス、仕事を増やしてはいないか
4. 記録はとても大事!

以上4点に整理しました。一人の高校教師が実名で顔も出して訴えことを、私たちは重い教訓として受け止めていく必要があると思います。

※2妹尾昌俊・工藤祥子(2022)『先生を、死なせない。教師の過労死を繰り返さないために、今、できること』教育開発研究所

(注記のない写真:takeuchi masato / PIXTA)

執筆:妹尾昌俊
東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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