得意分野をつくるため、中1で始めた「株式投資」
「僕は、株式投資を中1の頃にやり始めました。きっかけは、灘に入って自分よりすごい人がたくさんいると知ったからです。小学校までは勉強しなくてもオールAというように成績がよかったのですが、灘では、中1の夏休みが終わった段階で、高3で習う微分積分まで学び終えたと豪語するような人が普通にゴロゴロいる。圧倒的に自分より勉強ができる人がいて、そして灘の文化として、そもそも勉強で自分をアピールするというよりも、勉強以外でも自分の秀でることがないと同級生から尊ばれないということがあったんです。そこで自分が得意分野を持つために始めたのが株式投資でした。この株式投資を通じて、企業やビジネスの仕組みを知るために、年間1000冊くらいの本を読んでいました」
安田さんは高校生のときに読んだ本で、一代で世界最大のヘッジファンド、ブリッジ・ウォーターという会社を築き上げたレイ・ダリオというアメリカ人の存在を知った。そのとき安田さんは、ダリオの「トレーダーの勘だけに頼るのではなく、過去のデータに基づいて投資判断をする」という言葉を通して、データ分析・機械学習・AIという単語を初めて知ることになる。これは過去の株式チャートの情報や企業の財務諸表、SNSデータ、あるいは小売店の大型駐車場の利用状況を映した衛星画像などから、データ分析・機械学習・AIを活用して将来の株価を予測するといったもので、当時としては最先端の投資手法だった。
「大学は文系に進みましたが、高校時代の経験もあって、AIについては研究というよりも、AIを使って、どう社会に大きなインパクトをもたらすことができるのか、あるいは事業の手段としてのAIに興味を持ちました。そして、大学1年の頃から3社くらい掛け持ちでバイトをし、平均的な会社員の月給レベルのお金を毎月稼いでいたこともあって、大学を卒業するときも、就職は考えませんでした。ある程度自分で稼げるという自信もあったし、就職したらそれほど稼げないからです。ですから、大学を卒業して、とりあえず起業してみるかという気持ちで今の事業を始めたのです」
今は大学時代から起業を考える学生たちが昔と比べ、増加傾向にある。大学発の研究開発型スタートアップ企業をはじめとして、大学が学生に起業を勧めるケースも少なくない。かつてほど起業に対する抵抗感もなくなった。学生たちの目の前で起業する学生が増えていくほど、起業が気軽なものになっているのである。こうした時代を背景として、子どもたちの教育が変わらないわけがない。大人たちは何ができるのだろうか。安田さんはこう指摘する。
好きなことへの解像度を上げ、一段深い問いを
「僕も、アドバイザーとして関わっている財団で多くの小学生と会うのですが、小学生でも大人が知らないような知識を持っている子どもたちは多い。その起点は、大抵子ども自身が関心を持ったこと、好きというきっかけがあります。そうやって子どもたちが何かに興味を持ったときに、興味の赴くままに学べる環境が大事なのではないでしょうか。私自身も株式投資を通じて、自分の興味がある分野の本を自ら読んで、調べて、学びました。なぜそんなことができたのかといえば、楽しかったからです。自発的に学んで得た知識は忘れないですし、知れば知るほど学びたくなるんです。学び続ければ、問いが派生して、さらに深い問いを導くことになるのです」