車掌を辞め鉄道模型YouTuberへ転身した男の人生 働き方改革に直面するミレニアル世代のリアル

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ススクマさんと鉄道模型との出会いは幼少期に遡る。「亡き祖父がHOゲージ鉄道模型をやっていて幼いころから鉄道模型が身近にある環境で育ちました」と祖父との思い出を語る。また、「小田急線沿線に住み、眼下をゆく電車を見ながら育った」ことも鉄道に興味を持つ自然な流れだった。

実際に鉄道模型を始めるきっかけになったのは小学2年生のとき。祖父から「成田エクスプレス」の旧型車両である253系電車のNゲージ鉄道模型をプレゼントされたことだ。「精密な連結器の造形に驚いたことを今でも鮮明に覚えている」といい、そのまま鉄道模型の世界にのめり込んだ。

その後、神奈川県内の中高一貫校へと進学したススクマさんは、中学時代には車両キットの制作を、高校時代には鉄道模型ジオラマの制作を始めることになる。「学校祭で精密なジオラマによる鉄道模型の運転会を行ったことが一番の思い出です」と語るように勉強よりも鉄道模型一色の高校生活を送っていたそうだ。

この間に車両工作やジオラマ工作の技術に磨きをかけ、鉄道模型という趣味は専門学校に進学し社会人になった後も続いていく。そして、この工作技術がこれからの社会を生き抜いていくための新たな武器となるのである。

鉄道模型ハウスでの活動

地方移住を決めたススクマさんが最初に行ったことは、Nゲージ鉄道模型のジオラマ作りをするための環境整備だった。鉄道模型ユーチューバーとして注目されるためには「視聴者さんがこれまでに見たことのないジオラマ作りが重要になる」と考え、前例の少ない上下2段式の巨大ジオラマ作りを決意。そのために、自宅2階の壁を抜いて2部屋を鉄道模型専用の部屋として改装を行った。

武蔵野貨物線ジオラマ。上段部がローカル線ジオラマ、下段部が幹線鉄道ジオラマと貨物線ジオラマという構成(写真:susukuma)

制作中のジオラマは、上段部がローカル線ジオラマ、下段部が幹線鉄道ジオラマと貨物線ジオラマという構成で、さまざまなジャンルの鉄道ファンに興味を持ってもらえるよう設計している。武蔵野線の地下区間へのアプローチ部分をイメージした貨物線ジオラマ制作動画は再生回数が30万回を超えた。

ユーチューブ界においてニッチなジャンルである鉄道模型で再生回数を稼ぐために、ススクマさんは、海外視聴者の獲得にも力を入れている。ジオラマ作りで使用している線路が世界中の鉄道模型ユーザーに広く普及している英国PECO社製であることから、線路工作の動画には海外の鉄道模型ファンも興味を示してくれる傾向があることに気付いたのだ。そのため、2021年秋頃からは英語字幕も動画に入れるようにした。

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元エンジニアの父が制作するオリジナルの鉄道信号機や線路の分岐器を操作するポイントマシンの工作動画も人気コンテンツだ。3Dプリンターで制作した躯体にオリジナルの回路やプログラムを組み込んで実物の鉄道さながらの動きを再現しようとするものだ。ススクマさんは「信号機など専門的な電気知識が必要な工作については父の助けがなければ実現できなかった」と自身のユーチューブ活動には父も大きな役割を果たしていると話す。

家族、友人、そしていつも動画を見てくれる視聴者に支えられながら、ススクマさんの鉄道はこれからも力強く延伸を続けていく。

櫛田 泉 経済ジャーナリスト

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くしだ・せん / Sen Kushida

くしだ・せん●1981年北海道生まれ。札幌光星高等学校、小樽商科大学商学部卒、同大学院商学研究科経営管理修士(MBA)コース修了。大手IT会社の新規事業開発部を経て、北海道岩内町のブランド茶漬け「伝統の漁師めし・岩内鰊和次郎」をプロデュース。現在、合同会社いわない前浜市場CEOを務める。

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