PTA改革で注目の元校長「保護者なしに働き方改革は実現しない」と語る訳 本多聞中&桃山台中の元校長・福本靖の視点

保護者の負担を減らす分、参画を求めた「PTA改革」
福本靖氏は、2013年1月に神戸市立本多聞中学校(以下、本多聞中)に教頭として着任し、15年度から2年間校長を務める中、保護者と共にPTAの大改革を行った。まずは保護者の声に基づき、PTAの無駄な活動や専門委員会を廃止。学級役員を募って学年単位の活動に変更、各役員の活動も年間2回のエントリー制にするなど保護者の負担を大幅に減らしたのだ。
その分、学校に対して意見を出してもらうことを目的に、月に1回、校長・管理職・学級役員が自由かつ率直に意見を述べ合う運営委員会を開催。そして、生徒の読書環境の向上や、プロジェクターや加湿器の設置、年度当初に成績のつけ方を説明する会の開催など、この場で出た声を次々と学校運営に反映していった。
その結果、「保護者が学校教育に興味を持ってくれるようになり、先生たちに対する信頼も高まったと思います」と、福本氏は言う。自らの声が生かされると保護者も手応えを感じるのか、運営委員会は毎回40~50人の保護者が参加する活気ある意見交換の場となり、役員も立候補で決まるようになったという。

(写真:福本靖氏提供)
福本氏は、17年度以降は同市立桃山台中学校(以下、桃山台中)で校長を務めてきたが、ここでもPTAの体制を変えて保護者の声に耳を傾けてきた。コロナ禍では対面で集まることが難しくなったが、オンライン会議で意見交換をしたり、そこで持ち上がった意見や決定事項などはすぐに連絡システムや学校のホームページを通じて迅速に公開するなど、ICTを活用してより「開かれた学校」を目指した。
危惧したのは「PTA3点問題」解決後の学校運営のあり方
PTAは70年ほどの歴史がある任意団体だが、任意とはいえない問題のある運営になっている場合も多く、昨今ではPTA不要論者も少なくない。とくに「加入の強制・会費の徴収方法や用途・個人情報の取り扱い」の「3点問題」はよく指摘されるところで、訴訟に発展したケースもあるほどだ。
福本氏がPTA改革に取り組んだのは、こうした問題が解決した後の学校運営のあり方を危惧してのことだったという。
「時代の趨勢によって、3点問題はいずれ是正されると思っていました。ただ、その後、保護者の立ち位置はどうなるのか、非常に気がかりでした。今や保護者の意見を反映しなければ学校運営は成り立たない状況にあります。とくにコロナ禍のような不測の事態や働き方改革などの問題は、保護者の協力がなければ解決しません」
保護者に参画してもらうには乗り越えるべき大きな壁や山はあるが、「一度それを乗り越えれば学校運営はすごく楽になり、必ず生徒たちの幸せにつながります」と福本氏は強調する。
直近の事例を1つ紹介しよう。2021年度は当初、神戸市立中学校の卒業式は3月10日、その翌日の3月11日に兵庫県の公立高等学校の入試(一般選抜)が予定されていた。受験生とその保護者にとっては、何とも落ち着かないスケジュールだ。
コロナ禍で学校行事がほとんどなかった21年度の卒業生には、最後ぐらいゆっくり式典を味わわせてあげたい。そんな声が上がり、2月に教育委員会も卒業式の日程は学校の裁量で決めて構わないという方針を打ち出した。