PTA改革で注目の元校長「保護者なしに働き方改革は実現しない」と語る訳 本多聞中&桃山台中の元校長・福本靖の視点
卒業式を現行の日程で行うか、公立高校入試後の3月12日にずらすか。福本氏は、即座にPTAに連絡を取って相談。すると、すぐにPTA本部がSNSを活用してできるだけ多くの保護者の意見を集約、回答したほぼ全員から延期要望が出された。受験を控え新型コロナウイルスの感染に対する不安も大きく、「卒業式は12日に延期」が決まったという。ちなみに、こうした経緯で卒業式の日程を変更した学校は市内で桃山台中だけだった。

(写真:福本靖氏提供)
「卒業生たちも保護者の皆さんも本当に喜んでくださって、いい卒業式になったなと実感しています。日頃から学校と保護者が連携し、保護者の思いをタイムリーに学校運営に反映させるシステムを構築してきたからこそ、このように生徒のためになる急な対応も可能になったのです」
教育改善と働き方改革のカギとなる「保護者の合意」
桃山台中は、生徒のかばんも靴下も「中学生らしさ」を自分で考えて着用することになっており、自由だ。学校に行くのがつらいという生徒たちのために、校内にフリースクールのようなスペースも設置している。授業に出席するかそのスペースで過ごすかという選択も、登下校のタイミングも生徒本人に委ねている。一方、学校と保護者の間で生徒の様子をきめ細かく共有するため、個人面談は毎学期行う。これらはすべてPTA会議で出た保護者の意見を参考に変えてきたことだ。

(写真:福本靖氏提供)
「保護者に教わることは非常に多い。判断に悩むことほど保護者に話し合って決めてもらったほうがいい」と福本氏は言う。例えば、夏休みの宿題の量について意見が割れた際、保護者同士で話し合ってもらい、それを反映して「当初予定していた量を半分にし、あとは自由学習」という決定を下したことがある。量を増やしてほしい保護者には不服に感じられそうな結論だが、学校が決めたのではなく話し合った結果なので保護者は納得するという。
「よく『保護者が協議すると事態の収拾がつかなくなるのでは』と質問されますが、そんなことは一度もありません。個別に対応するよりも、保護者同士が出してくれた意見に従うほうが楽です。『保護者の意見=クレーム』と恐れる学校もまだ多いですが、今の保護者は極めて常識的なので、議論もよいところに落ち着きます」
保護者との連携で、生徒1人ひとりへの対応もしやすくなる。昔に比べ非行問題は減ったが、今は子どもの内面の問題が多く「保護者の力を借りないと把握できない」と、福本氏。発言しやすい風土をつくると、控えめな保護者からも「文句ではないが、ちょっと気になること」などの意見が出てきて、それがトラブルの芽を摘むきっかけになることも少なくないという。
また、決定事項は翌年度から実施とする学校も多いが、桃山台中は早ければ翌日から実施というスピード感で運営してきた。しかし、こうした学校運営は教員の負担にならないのだろうか。
「子どもが生き生きし出して保護者も協力してくれるようになると、教員も支えてくれるようになると感じます。それに、保護者の理解や協力は、教員の働き方改革に欠かせないものです」
教員の長時間労働は昨今広く知られるところだが、教員が身を削って提供する“教育サービス”を当然のことと保護者が捉えている部分もあり、「ここを調整しないと絶対に教員の働き方の問題は解決しない。だからこそ保護者と話をする必要があるのです」と福本氏は訴える。しかし、それは決してサービスの押し付け合いではない。今の時代に合った合理的な形で保護者とコンセンサスを取っていくということだ。
例えば、福本氏は、2021年度の桃山台中の部活動は保護者の合意を得て、実験的に夏時間(4〜9月、18時完全下校)を廃止し、年間を通じて教員の定時である17時までとした。結果的に定時帰宅はかなわなかったが、「教材研究やリモート授業の準備が十分できるようになり、精神的に楽になった」という声が聞けたという。さらに「生徒たちからも『自分のやりたいことができるようになった』と大好評でした」と福本氏は話す。