FRBの金融引き締めへの大転換はどう進められるのか。元日本銀行審議委員で国際経済に詳しい白井さゆり慶応義塾大学教授に聞いた。
賃金と物価のスパイラルが発生
――FRBがタカ派的(金融引き締めに前向き)な姿勢を強めています。
FRBのインフレに対する見方がガラッと変わったのは2021年11月下旬だった。テーパリング(量的緩和の規模縮小)を開始した11月初めのFOMC(連邦公開市場委員会)開催の時点では、パウエルFRB議長はインフレを「一時的」だと言っていた。
ところが、11月下旬にパウエル氏が再任され、バイデン大統領と会見を行ったときから、インフレが重大な懸念だと強調するようになった。おそらく大統領からパウエル氏に対し、インフレに対する懸念が伝えられたのではないか。インフレは大統領支持率低下の主因になっているからだ。それもあって12月のFOMCでテーパリングを加速して2022年3月に終えることを決めた。
――アメリカのインフレは実際にも歴史的高水準となっています。
インフレ圧力はほかの先進国と比べてはるかに強い。直近の消費者物価指数は前年同月比7%、(食品とエネルギーを除く)コアで5.5%上がっているが、インフレ基調を示すあらゆる指標が上昇している。
インフレ期待も5年、10年といった長期ですべて上がっている。市場の期待インフレ率を示す10年のブレークイーブンインフレ率(BEI)も最近は2.5%程度と、2%程度だったここ5年間より一段上の水準にある。
もう1つ注目されているのが労働需給の逼迫による賃金上昇だ。
――平均時給は前年同月比で5%近く上昇しています。
高インフレで実質賃金が低下しているため国民の不満は大きいが、人手不足で賃金が上がり、そのコストを販売価格に転嫁するという「賃金と物価のスパイラル」が起きつつある。先進国ではアメリカだけだ。労働市場のタイト感が非常に強い。金融政策の正常化を急ぐ必要があるのは事実で、インフレ重視の方向に転換せざるをえない。
――1月26日のFOMCでは3月半ばの次回FOMCでの利上げ開始決定が強く示唆されました。
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