
いんべ・かをり 1980年生まれ。短大卒業後、独学で写真を始める。編集プロダクション勤務などを経て2006年からフリーランス。13年、写真集『やっぱ月帰るわ、私。』で第39回木村伊兵衛写真賞最終候補に。18年第43回伊奈信男賞受賞、19年日本写真協会新人賞受賞。(撮影:今井康一)
2018年6月9日、小島一朗は走行中の東海道新幹線車内で、乗り合わせた女性2人にナタを振るい、止めに入った男性を殺害。一審で「希望どおり」無期懲役を言い渡されると万歳を三唱する。が、刑務所内では反則行為を繰り返し、多くの時間を隔離された部屋で過ごす。市井の女性を長時間の対話の末に撮る異色の写真家が、無差別殺傷犯の闇に迫った。
対話、手紙で掘り下げた 刑務所に親を求めた男の心
──読了して改めて表紙の写真を見ると背筋がゾクッとします。
事件から2年後の6月9日に、小島が使ったのと同じ新幹線の同じ号車で資料的に撮ったものです。コロナ下で乗客が少なく、事件のときに乗客が逃げ去った車内のような写真になりました。
──なぜ、女性の被写体への手法を男である小島に用いたのですか。
写真であれ文章であれ、「人の心を掘り下げる」が興味の源です。女性の場合、実体験から何を感じたかを話す人が多く、結論を急がないので話が行ったり来たりしますが、最後は話のつじつまが合うという達成感がある。そのうえでフィクションを絡めて撮るのが、表現的に合っている。男性は、最初から結論ありきという人が多く、対話にならない。男でも無差別殺傷犯の場合、報じられる「死刑になりたい」など以外の動機を心の奥底に持っているはずで、それが知りたい。被写体の女性たちと話してきた経験上、本人との対話がいちばん真実に近づけると思っているので、ひたすら話を聞いてみたいという願望がありました。
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読み頂けます。
登録は簡単3ステップ
東洋経済のオリジナル記事1,000本以上が読み放題
おすすめ情報をメルマガでお届け
トピックボードAD
有料会員限定記事
連載一覧
連載一覧はこちら