川のない所で土砂災害 氾濫起こすのは“流域" 慶応大学名誉教授 岸 由二氏に聞く

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総合治水に関わった鶴見川の土手にて(撮影:梅谷秀司)
きし・ゆうじ 1947年生まれ。横浜市立大学生物科卒業、東京都立大学理学部博士課程修了。専攻は進化生態学、科学哲学。NPO法人鶴見川流域ネットワーキング代表理事。著書に『「流域地図」の作り方』『利己的遺伝子の小革命』など。共訳書にドーキンスの『利己的な遺伝子』。
生きのびるための流域思考 (ちくまプリマー新書)
生きのびるための流域思考 (岸 由二 著/ちくまプリマー新書/946円/230ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
流域と聞いてほとんどの人がイメージするのは川と周辺の河原くらいだろう。しかし、それでは狭い。「大雨が降ると水を集めて川を作る地形」と定義すれば、7月に熱海で発生したような、普段は川がない場所での土石流の危険性も察知することができる。

──熱海の土石流を「流域思考」で読み解くとどうなりますか。

川がなくても流域を定義できるのが国際標準です。米国では稜線(りょうせん)で囲まれたガレ場もwatershed(流域)と表現できる。山頂からふもとまで流域。氾濫を起こすのは川ではなく流域なのです。

熱海は残土5万立方メートルが崩れて土石流になった。これだけの残土を流すのにどれくらいの水が必要かと考えるのが流域思考。残土が積まれた場所の面積は2ヘクタール前後として、400ミリメートルの雨が降り半分は流れたとするとたまる水は4000立方メートル。これであの土石流は生じませんね。よーく地形を見ると、崩壊地点の上が隣の流域と低い分水界でつながっている。ただ、そこの降水量を加えても足りない。ポイントは崩落の起点付近の道路です。そこにさらに東の2つの流域の雨が集まる可能性が高い。大雨時に川のようになると、ヘアピンカーブの部分で水が越流するのは容易に想像できる。真相は国土交通省などの調査を待ちますが、道路を通じ周辺流域の水が集まって崩れたと推測できます。

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