クジラやイルカ年300体が日本の海辺に漂着している 国立科学博物館 動物研究部研究主幹 田島木綿子氏に聞く

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たじま・ゆうこ 1971年生まれ。日本獣医生命科学大学獣医学科卒業後、東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻にて博士課程修了。同研究科特定研究員、渡米、2006年当博物館支援研究員を経て、現職。筑波大学大学院生命環境科学研究科准教授。総監修に『海棲哺乳類大全』、翻訳に『イルカの解剖学』ほか。(撮影:風間仁一郎)
海獣学者、クジラを解剖する。~海の哺乳類の死体が教えてくれること
海獣学者、クジラを解剖する。~海の哺乳類の死体が教えてくれること(田島木綿子 著/山と渓谷社/1870円/335ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
進化の過程で陸から海に戻り、なお哺乳類であり続けることの過酷さ。エラ呼吸へ移行せず肺呼吸を続け、生まれた赤ん坊を海面へ押し上げて呼吸させ、海中へ戻して授乳する。不都合の多い海で哺乳類として生き続ける姿に、著者はシンパシーを感じるという。何らかの理由で、彼らが海岸に打ち上げられる現象「ストランディング」。その謎に挑んでいる。

海の哺乳類たちの謎解明は死んだ個体の解剖から始まる

──クジラやイルカのストランディングが年300件もあったとは。

報告された数だけです。海岸に打ち上げられ、誰も気づかないまま海の藻くずと化した個体も多数あるはずで、実際の数はもっと、それこそ倍以上かもしれません。

同じ島国のイギリスでは年500件報告されています。日本との数の差はストランディングに対応する各地の協力体制やネットワークの普及度の差。欧米ではストランディング個体を海の哺乳類の調査・研究に生かす重要性が早くから認識され、国を挙げて取り組んでいる。そういう意味で、日本で年間300体が打ち上げられている事実を、われわれ研究者が皆さんに広く知ってもらうよう努力しなきゃいけない、と強く思います。

──ストランディング調査はまず、時間との勝負とか。

死体で漂着するケースが多く、腐敗が進むと病理解剖が難しくなる。さらに地元自治体にはその死体を粗大ゴミとして処理する選択肢がある。法律がないので、打ち上がった個体を調査に回す義務はありません。臭いし汚いし、住民から苦情も来るし、粗大ゴミとして捨てるのを否定はできない。でもそこで「ちょっと待ってください」と。とくにクジラやイルカは、われわれが調査のためにモリで突いて捕ることなどできない。それなら、打ち上がった死体を活用しない手はない。そこから得られる情報はとても貴重なんです。

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