安倍晋三前首相の任期中、国家安全保障局(NSS)のナンバー2として安全保障戦略の中核を担ってきた兼原信克氏。国家安全保障のための最先端技術を生み出すには、学術関係者や民間企業を巻き込んだ仕組みづくりが欠かせないと説く。
──民生分野の技術的ブレークスルーが、安全保障環境を大きく変えていると指摘しています。
米商務省が14分野の新興技術を挙げているが、人工知能(AI)と半導体はとりわけ重要だ。半導体は、最先端の超微細化技術を有する受託製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の存在が、地政学リスクを左右するまでになっている。米国はTSMCに対し、「セキュリティーリスクのある中国との取引をやめて、アリゾナに工場を持ってきてほしい」というメッセージを発してきた。
台湾有事を想定し、安定して半導体の供給量を確保したい狙いもあるだろう。TSMCは米国を選んだ。日本も、TSMCの半導体製造の後過程を国内に誘致しようとしている。
これからの10〜20年では、量子コンピューター技術の覇権争いも重要になる。量子コンピューターの能力は桁違いである。暗号や新素材の開発、創薬などさまざまな分野で利用が見込まれるが、安全保障の世界も激変することは間違いない。だから米中がものすごい勢いで、量子コンピューターに予算を入れ始めている。
──経済安全保障をめぐる日本の反応をどうみていますか?
自民党の半導体戦略推進議員連盟が立ち上げられるなど、正しい方向に向かっていると感じるが、日本で経済安全保障に関する議論が始まったのは、2〜3年前にすぎない。これには日本特有の科学技術予算のあり方も関係している。
米国の研究開発予算は20兆円あり、そのうち10兆円以上が国防総省(ペンタゴン)やエネルギー省に流れている。米国には科学技術庁がないから、ペンタゴンやエネルギー省が一大科学技術集団を形成していて、ここでは軍事技術に限らず先端技術の基礎研究や応用研究、装備開発が行われている。
この記事は有料会員限定です
残り 758文字
