古典にして今なお警世の書 こだわりの訳で読みやすく
評者/帝京大学教授 渡邊啓貴
「戦争とは他の手段をもってする政治の継続にほかならない」という一句により、リアリズム政治学のテキストとして今日でも世界中で読み継がれる古典である『戦争論』。
これまでにも3つの全訳、2つの抄訳が出ているが、あまりにも浩瀚(こうかん)で、またクラウゼヴィッツが軍人であったため、戦略、戦術に関する微細な論述も多く、一般には読み通すのが難しい書物である。3つ目の抄訳となる本書の訳者は、その点を十分に理解したうえで要諦を踏まえつつ、今日もなお有効性を持つ部分を簡明に訳出している。
クラウゼヴィッツは、ナポレオンに徹底抗戦した筋金入りのプロイセン軍人であるだけに、戦争に対する冷徹な見方が『戦争論』の真骨頂だ。
戦争はいったん始まると敵の武装解除では終わらない。武力の無制限使用による敵の徹底破壊に至る残忍性こそが戦争の本質である。実体験からくる戦争への決定的な悲観論だが、それゆえに「戦力使用の抑制」が繰り返し述べられている。
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