米国の政策が中米翻弄、生命を守るための移民 ジャーナリスト 村山祐介氏に聞く

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むらやま・ゆうすけ 1971年生まれ。立教大学法学部卒業、三菱商事入社。ビジネスでの経験を積み、2001年に朝日新聞に移る。ワシントン特派員、ドバイ支局長などを経て20年にフリーランス。米国に向かう移民の取材でボーン・上田記念国際記者賞受賞。
エクソダス: アメリカ国境の狂気と祈り
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豊かさを求めて国境を越えるメキシコ人の不法移民を阻止するため、国境に壁を造り始めたのはトランプ大統領で、国境地域の人々はそのことを歓迎している──。そう思っている日本人は多いのではないだろうか。事実はまるで違う。3200キロメートルの国境を走破し、移民の源まで取材した、先入観を覆すルポだ。

──壁は「トランプ発」ではない。

壁の建設が始まったのは1990年ごろからです。冷戦終結によりカリフォルニア州の軍需産業で失業者が増え、メキシコ移民がスケープゴートにされました。「すべての米国人が、不法入国した外国人にかき乱されている」と95年に演説したのはビル・クリントンです。トランプの発言と言われても違和感はありません。

同時多発テロがあり、2006年に1100キロメートルの壁を造ることを政府に義務づける安全フェンス法が成立。ただ、そのうちの500キロメートルは車止めだけで人の往来が可能です。「トランプの壁」の多くは既存部分の建て替えで、新設はわずかです。しかも、6メートルの壁を造っても6.2メートルのはしごを掛ければいいだけで、抑止効果は限定的。麻薬を密輸する連中は、壁の下にトンネルを掘りますし。

──米国人も誤解している。

現状を理解しているのは国境周辺の人たちくらいです。17年に壁を太平洋からメキシコ湾までたどっても、「Build that wall」に熱狂的な関心を寄せる人たちに会えませんでした。「雇用、治安を守る」と壁をセットにしたトランプのメッセージが、国境から離れた場所に暮らす現状に不満を持つ人々へのものだと肌身に感じたのは、ラストベルトに行ったときです。

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