五輪中止の影響は?
金融危機が起こらなければ、実体経済の悪化はどの程度になるのか。
大和総研の試算によると、20年の日本の実質GDP成長率はメインシナリオで前期比1.1%減。東日本大震災のあった11年(0.1%減)以来のマイナス成長となる。
メインシナリオの前提は、ウイルスの流行が4月ごろまで続くというものだ。これに対し、21年1月ごろまで長引くと仮定したリスクシナリオでは、3.4%減までマイナス幅が広がると予想される。
大和総研の小林俊介シニアエコノミストは「春闘や新卒採用活動が停滞しており、今後の所得環境の悪化も懸念材料だ」と語る。
国民の関心を集める東京五輪の行方だが、本誌の試算では、仮に中止になると、7947億円のGDP減少となるとはじき出された。東京都が昨年4月に公表した「東京2020大会開催に伴う経済波及効果」を基に直接的な今年の需要見込額を絞り込んだ結果だ。これはGDPを0.2%程度押し下げるもので、さほど大きくないが、不動産業やスポーツ産業などでは大きな問題を引き起こす。社会的なインパクトも巨大だ。
日本政府は3月10日、緊急対応策の第2弾を決定した。中小企業や個人事業主への無利子無担保融資制度の導入などが柱だ。金融危機が起きれば、先の成長見通しが一段と低下するのは必至。世界の中央銀行や財務省が連携して金融危機を抑え込めるか、闘いは待ったなしだ。
(本誌 野村明弘)
ゴールドマン・サックス証券 日本経済担当 チーフ・エコノミスト 馬場直彦
自由社会ゆえの長期化リスクも
日本経済は昨年10~12月期から消費増税や台風などで勢いを失っていたが、新型コロナが追い打ちをかけた。影響はまずインバウンド需要に出て、中国の工場休止で財の輸出にも及ぶ。中国からの部品供給が滞ると、国内工場の稼働にも支障が出る。さらに、国内での感染拡大と政府による一斉休校・イベント自粛要請に伴い、個人消費への影響が拡大する。これらの影響が3月にかけ一気に出てくる。
中国は政治体制の違いでトップダウンの対策が効きやすく、3月中にも感染が終息する可能性がある。一方、日米欧などは自由社会であり、政府の要請だけですべてを統制するのは難しく、感染が長期化するリスクが高い。
当社は3月2日に1~3月期の実質GDP成長率予測を前期比年率マイナス2.2%へ、2020年暦年でマイナス1.1%へと下方修正した。ただし、4月末までに新規感染者がピークを打ち終息に向かうのが前提。その時期が遅れるほど、個人消費や設備投資などの下押し要因となる。仮に5月末までに国内感染に歯止めがかからず東京五輪が中止された場合、経済効果約8000億円の喪失以上に感染が7~9月期まで長期化する悪影響がのしかかり、20年の実質成長率はマイナス2.0%へ下振れするとみている。
海外投資家は感染のマクロ影響とともに、日本銀行の政策余力や為替動向を気にしている。輸出企業の損益分岐点でもある1ドル=100円を割れば、効果は別としてマイナス金利の深掘り検討もありうる。
(構成 中村 稔)
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