コンパクトに変遷を叙述、国家とともに生き延びる
評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
「資本主義は最悪の経済体制といえる。これまで試みられてきた、資本主義以外の全ての体制を除いては」。民主主義に関するチャーチルの名言をもじって、資本主義を揶揄する人も多いが、代替しうる経済体制を掲げるのも難しい。
ただ、資本主義なる呼び方は、工業社会が誕生した19世紀半ばの西欧で、資本の論理に左右される当時の過酷な経済社会を批判するために生まれた。資本主義批判は資本主義同様、古くから存在する。
本書は、資本主義のこれまでの変遷を歴史学の重鎮がコンパクトにまとめたものだ。
15世紀頃まで、社会の圧倒的大部分は自給自足体制で、封建的な非資本主義の原理が支配していた。ただ、世界各地で早くから遠隔地貿易が活発化し、商人資本主義の萌芽も見られた。興味深いのは、その段階からトランスナショナルな性格を持ち、金融と深く結びついていたことだ。
続く300年は、地理的発見もあり、グローバルな商人資本主義や金融資本主義が、プランテーションや鉱業、家内制手工業に広がる。市場経済ではなく、あえて資本主義と呼ぶのは、賃金労働の広がりとともに、労使間の緊張や不平等拡大など社会や文化に多大な影響を及ぼしたからだ。
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