市場に委ねてはダメ 必要なのはガバナンス
評者 北海道大学大学院教授 橋本 努
バブル崩壊後の1990年代、日本の政界や財界のリーダーたちは、それまで日本経済を支えた経済の慣行に疑問の目を向けた。日本は米国型の自由市場モデルへと抜本的に舵を切るべきではないか。「規制を緩和して日本経済を刺激すべし」という言説が世論を席巻した。
だが本書は、そもそも「自由な市場」と「規制された市場」を区別する発想それ自体が誤りで、市場経済は米国型を含めてすべて社会に埋め込まれているのだという。
規制を緩和するといっても実際には別の種類のガバナンスに置き換えるにすぎない。市場改革は解体ではなく構築の企てであり、そのような視点で捉えれば政府当局はもっとうまく政策全体の舵を取ることができるし、ビジネスリーダーたちも賢い戦略を採ることができる、というのが本書の主張である。
市場を「規制」対「競争」という単純な図式で捉えると、競争を促すための規制の重要性が見えなくなる。例えば情報革命のためには、複雑なオークションや金融派生商品のための市場を作りこむ必要があるが、これが見えない。日本政府はこれまで、低料金で高品質のブロードバンド・ネットワークを実現してきた。ところがIT関連機器で日本の製造業の衰退を防ぐことはできなかった。ビジネス向けソフトウエアや検索エンジンなどで、米国の覇権に挑むこともできなかった。
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