自由な選択を可能にする理論装置を提供する
評者 北海道大学大学院経済学院教授 橋本 努
社会の制度設計のために、最近のゲーム理論がどのように役立っているのかをわかりやすく述べた好著である。
経済学を含めて従来の社会科学は、未来をできるだけ正確に予測しようとしてきた。これに対してゲーム理論は、正反対の発想をする。未来を予測すると、今度はその予測に人々が反応してしまうので、当初の予測は役立たなくなる。だから予測は確率論的に与えるにとどめて、別の方法で資源配分を最適化しようというのである。
たとえば米国では、テロリストの攻撃から主要空港を守るために、ゲーム理論が応用されている。テロ攻撃による「期待死者数」を最小化すべく、どの空港をどの程度警備するかについて、アルゴリズムを使って最適化するという。実際に人間の頭で計算するのではなく、コンピュータに任せて警備員を最適に配備する。いまやゲーム理論は、新たな制度デザインを提案するアートの役割を引き受けている。前例を重んじる悪しき官僚主義を打破するツールになるというわけだ。
この記事は有料会員限定です。
東洋経済オンライン有料会員にご登録いただくと、有料会員限定記事を含むすべての記事と、『週刊東洋経済』電子版をお読みいただけます。
- 有料会員限定記事を含むすべての記事が読める
- 『週刊東洋経済』電子版の最新号とバックナンバーが読み放題
- 有料会員限定メールマガジンをお届け
- 各種イベント・セミナーご優待