歴史に学ぶと極めて危険だと論じる
評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
明治維新後、勃興する日本は、アジア最大の清国と対戦、その後、ロシアとの戦争にも勝利した。同時期、欧州で台頭したドイツは、大国フランスとの戦争に勝利、その後、第1次世界大戦で英国に敗れる。
急膨張する新興国と覇権国との戦争は不可避なのか。
本書は、米国で歴代国防長官の顧問を40年近く務めた国際政治学の世界的大家が、歴史的視点から、米中戦争の危険性を警告したものだ。
前例は近代の日本やドイツだけではなかった。台頭するアテネと大国スパルタとの戦争を分析した古代ギリシャの歴史家トゥキディデスが、覇権国とそれを脅かす新興国との危険な関係を浮き彫りにしていた。本書は、過去500年で16の類例を見出し、うち12のケースで「トゥキディデスの罠」に陥り、戦争に至ったことを示す。米中戦争が不可避とは結論しないが、歴史に学ぶと極めて危険だと論じる。
分析によると当事国が自らの意思で戦争による決着を選択するのはまれで、同盟国の不測の行動などをきっかけに、両国は戦争を余儀なくされる。サプライチェーンで経済が深く結びつく現在の米中と同様、20世紀初頭の英独の相互依存関係は深く、誰もが戦争はあり得ないと考えていたが、第1次世界大戦は勃発した。
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